それは、何かを考えての行動ではなかった。

どちらかといえば、思いつきのような

突発的なもので、けれども自分は、それがまるで当然であるかのように。


ただただ、アイツの居そうな場所に行こうと思う
(アイツが居る場所なんて大体決まっているけれど)



本当に突発的だけれども、だって何の疑問も抱かなかったから。








  心がかくなるような





吹雪く様な北風が、今日起きたら、ピタリと止んでいた。

温く降り注ぐ、久しぶりの太陽光。

気付けば足元に、小さく芽吹く冬の開けた証。


なんだか、心が疼くじゃないか。


それでおいて、何故『アイツ』なのかと聞かれると
改めて少し考えてしまうけれど

でもやっぱり


突発的であり、そしてそれが当然なのだと思ったのは、アイツだけだったから。


「よし、向かうか。」


アイツと、モフモフの皆が大好きそうなお土産を片手に。

一歩踏み出した、温かい日差しを眼一杯に浴びようとする
下草の淡い緑を踏みつける。


さん?」


その時引き止めた声は、聞き覚えのある――


「・・・・ジェイ?」

「此処にいましたか。全く、手間かけさせないで下さいよ。」

「え、あ、何?用事?」

「いえ、別にそういう訳ではありませんけど・・・・」


そう言ってジェイは、淡く透き通るような晴天を見上げる。
太陽光が眩しいのか、少し眼を細めながら。


さんの好きそうな天気だな、と思ったものですから」


そう言ってジェイは、片手に持っていた紙袋を差し出してきた。

何だコレ、と見ていると「さん、お好きでしょう、そういうの。」だそうで
中から香ばしい香りがしてくるのを思うと、どうやらパン屋さんで何か買ってきてくれたようだ。

中身を見れば予想通り、好い色に焼けたフランスパンや菓子パンが
かなりギュウギュウに詰まっていた。

流石に一人では食べきれない量だが、
ジェイを見れば、なんだかニヤニヤしているので、恐らくわざとなのだと理解できる。


は何か言おうとして、
口を噤んで、困ったような笑いを向けた。


「私、これからジェイの家に行こうと思ってたんだけど。」

「僕の家?」

「ほら、いい天気だったから。」


そう言って、手土産を顔の辺りまで持ち上げれば
流石のジェイも、苦笑いした。


「何で僕なんですか」

「さあ?ジェイこそ、何で私なの?」

「・・・・・・・・さぁ?」


2人で、別に目的があるでも無いのにお互いを探しあって
なんだか、少し笑えてきてしまって
2人して、何ともいえない表情で笑いあう。


「ジェイの家、行って良い?
 この大量のパンの消費もして欲しいし。」

「―――構いませんよ、さん」


笑いながら言ったら、
ジェイは微かに笑みを浮かべながら、頷く。


ああ、何だろう。


春は頭の中を少しおかしくしてしまうのだろうか。


この良い天気。

彼に会いたいと、何の疑問も持たずに思うなんて。

しかもそれが、お互いの話だ。

どう考えても、頭の中が浮かれている。上に疑問も持たないなんて。


ダクトに入り、先に行ってしまいそうなジェイの袖を、掴む。

ジェイはそのまま手を繋いでくれて、お互い片手に大きな手土産を持ちながら。


「春になると、変な人が出てくるっていうよね。」

「何なんですか、唐突に。」

「私達みたいな人の事言うのかなぁ」


天気がいいから、春が来たから

だから、彼に会おう

そして、繋がれた手の平は、
まだ少し寒さを含む空気の中で、温かい。

心まで、温かくなるような、浮かれた気分で

ジェイは少しだけ考えて、やっぱり困ったような顔で、笑った。



「案外、そうなのかもしれませんね。」


そうだとしたら、世界は結構、平和かもしれない。


そんな事を思う、心が温かくなるような春の一日。