誰かが呼んでる気がするの


誰だか解らないけれど私を呼んでる


思い出せない『いつかの日』みたいに


ねぇ、貴方は誰なの?


この暗闇から・・・


この私の体を離さない暗闇から


救ってくれるの?





また えた





「また、ここに居たの・・・」

リナリーに呼ばれて、アレンは扉の方に目を向けた。

「どうせ、また一晩中起きてたんでしょう?」

「・・・・」

その問いかけに何も言わず、視線を戻す。
溜息の音がした。

「ねぇ、少しは寝ないと・・」

「・・・・」


「もしが目覚めた時、
 アレン君が具合悪そうにしてたら、悲しむよ?」

「・・・・」

もう一度、溜息・・・

アレンは、目の前で眠るから
目を離さない。

死んだ様に、眠ってる・・・・

身動き一つとらない。
指一本、動かさない。
まるで、死人の様に・・・

それでも、彼女は生きている。
やつれてても、笑ってくれなくても、点滴でボロボロな腕でも・・・

生きている。


間違いなく・・・・・




「・・・・もう、一年になる?」


「・・・うん・・・・。」



説得を諦めたリナリーの言葉に、
ようやく返事を返す。

一年前のあの日、は意識不明の重体で帰ってきて、
医療班の人が手を尽くして、一命は取り留めた。
でも・・・・

あの日から

意識だけが

戻らない・・・・・・











約束したの

『いつかの日』に

ちゃんと戻ってくるって。


あの懐かしい声で

『行かないで』って

泣きそうな顔で

言ってくるから。

『ちゃんと戻ってくるから』って。

あの時

泣きそうな顔して

私を見送ってくれたのは

誰だったかしら・・・・?









「あの日、夢を見たんです・・・」

「夢?」

「うん。が任務に行って、それきり
 帰ってこない夢。」

嫌な予感がした。

だって、あまりにも現実味があったから。

だから、

止めたのに・・・・


『大丈夫!絶対に戻ってくるよ!
 約束する。このちゃんが、私達はまた会えると
 予言してあげましょう!』


そんな、バカみたいに明るい声。

は、戻ってきた。確かに。


でも、


体だけ・・・・・



「・・・・私、何か食べるもの持って来るね。
 アレン君。まだ食べてないでしょう?」

「リナリー・・・・
 ・・・ありがとう・・・・・。」

そう言うと、リナリーは微笑んで出て行った。

彼女の気遣いに感謝しながら、
アレンは、点滴の通ってない方の手をとる。

こんな姿見るくらいなら、
いっその事、この手で殺めてしまおうかと思った。

神に魅入られたこの左手を
の首に絡めて、少し力を入れれば・・・


きっと

は楽になれるんだろう。

それなら、いっそ・・・



それでも、

何度思っても


出来なかった。

あの日のの笑顔が


頭から

離れなくて・・・・






「ねぇ、・・・」


誰かが呼んでる気がするの・・・


「いつになったら
 目覚めるの・・・・・?」

懐かしい声で

優しい声で

話しかける・・・・


「ねぇ、

貴方は誰?

どうして、私を呼ぶの?

「もう、僕は君に
 会えないのかな・・・?」

ねぇ、貴方の元に行ったなら

その答えは、見つかるのかしら・・?

・・」

泣かないで

今行くから。

答えを求めて







貴方に会いに・・・






・・・?」

今、手を握り返してくれた・・

今だって、弱々しくだけど、こうして――・・・

!?ねぇ、!!」

薄い瞼が震える。

久しぶりに見せた

澄んだ瞳―――・・・・


「・・・ア・・・レン・・・?」

!!」



弱々しく、名前を呼ばれて・・・

抱きしめた。

その、細くなった体を

彼女の温もりを

生きてる証を

夢じゃない事を

確かめたくて・・・・



細くなりすぎた体は
今にも折れてしまいそうで、
力を籠めれば、脆く崩れてしまいそうで・・・

それでも、暖かくて優しい・・

変わらない、の姿・・・

「アレン。」

そうやって、自分を呼ぶ声。

何度求めたんだろう。

その、優しい笑顔。

なんど願ったんだろう。

こうして、抱きしめ返す力

なんど、欲したんだろう。


・・・・」

あわせる唇の感触


なんど・・・・望んだだろう・・・



「愛してる。」

その言葉を

一体、何度・・・・



「ね?私たち、また会えたよ。
 ちゃーんと、私の予言どおり。」

「うん・・うん・・・・・」

また、会えたね。

ほんとうに。

一体、どのくらい待たされただろう・・?

それでも

この手で殺めずにいて

良かった・・・


この笑顔に

また


会えた・・・・・・
























誰かが呼んでた気がするの。



明るい所から、優しい声で・・・



 ―ずっと―


 ―ずっと・・・―



優しい声で

私の名を・・・・

その声が、思い出せなかった

でも

『いつかの日』みたいに

泣きそうな声だったから・・・・・



ねえ

あの声は、貴方でしょう?


どうして忘れてたのかしら・・・

こんなに優しく私を呼ぶのは

貴方しかいないのに・・・・



「ねぇ・・・アレン・・。
 愛してる・・・」

「・・・僕も・・・」



ねぇアレン。

また貴方に会えたこと



どうしようもなく

嬉しいよ?


今まで失くしてしまった時間


これから


たくさん


取り戻そう?



                        ―fin...

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