頬を嬲る風は、じっとりと重たく湿っていて、
もう梅雨も近いのだと思わせるには充分だった。


世界は、夏に向けて色をより鮮やかに増そうとするけれど
それはあくまでも一般的に季節から見た世界の話であって、
自分的に言わせてもらえば、世界は無色になる一方だった。


6月になっても抜け切らない、気だるい五月病。


世界はくだらなくてつまらないものだった。


なんて、悟ったような事を言ってみても、まだ年端も行かない自分が
例え何を言ったところで、結局はただ、だるいだけなのだ。


木漏れ日から見る世界は、揺れて、揺れて。


隣から聞こえる寝息が、現実味の無い現実だ。


自分の肩に頭を乗せて、珍しく、無防備な寝顔。


別にアンタは五月病なんかじゃないでしょうに。


思っては見るけれども、まあ彼なりに疲れてるんだろう。
自分の体省みずだから、その内ムリは祟って、いくら馬鹿でもたまにはこうなる。


木漏れ日が、揺れる。


季節はもうすぐ梅雨になり、気分はより一層暗鬱街道まっしぐら。


世界は色を失って、


ゆらゆら、ゆらゆら、


不安定。


隣に居る『黒』だけは、それでも、強烈なほどに世界に色を残していた。

自分の中で色を亡くしていく世界が、
そこだけ、褪せることなく光る闇となって存在している。


自分を現実に引き止めているのは、その色だった。


その色の鮮やかさが、
自分の中での彼の存在感に、比例しているようだった。


少し、癪。



「嫌いよ、」



声に出して、誰とも言わずに呟く。



「だーっい嫌い」



その絶対的な存在感が、自分を此処に引き止めている。


いっそ夢見心地に、思考が壊れてしまえば楽なのに、
この『黒』が、それを赦さないから。




「・・・・・それでも、好きよ」




だから今、自分はこうして、この色を失いつつある世界で
それでも、迷わず進んでいることが出来る。


望まずともこの世界に心を繋ぎとめる彼が嫌い。

それでも、導となっている彼が好き。


矛盾なんて感じない。


嫌いなところも好きだから、私はそれに『愛』を想う。



「ちょっと、聞いてるの?」



拗ねたように言って神田の横顔を見やったら、
未だに、必死になって『狸寝入り』を決め込んでいたけれど


耳まで真っ赤にしていたら、流石に分かるわよ、馬鹿。


次の瞬間、思わず吹き出した彼女の笑い声に、
神田の怒鳴る声が重なるまで、時間は然程、掛からなかった。


嫌いなところも、大好きよ?




私 は 其 れ を と 呼 ぶ
矛 盾 す ら 、 『 愛 』 と 称 す に 相 応 し い







日記にてお祝いした神田君夢。
こんなんでも一応、無期限フリーだったりするのです。
[BGM by VAGRANCY / Image by tricot]



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