陽射しが真っ直ぐに自分に降り注ぐ。

空は何処までも透明で、
緩やかな速度で流れる雲が、そんな空の割と高い位置に流れている。


冷たい北風は世界を巡り、寒そうな裸の木々を揺らす。


ゆっくり深呼吸すれば、スッと流れ込んでくる清浄な空気。


ああ、冬なんだなぁと。


今更ながらに改めて思った。



「なぁにやってるんさ?」


何となく部屋の窓を開けながらボーっとしていたら、
何故なんだか、当たり前の様に入ってくる男が居て。


覗き込むような仕草で此方を見やる赤毛のソイツに、
さして、驚くでもなく返した。



「空気の入れ替え。」


「・・・・に、してはちょっと寒すぎじゃ・・・」


「多分一時間程開けてます。」


「明らかに開け過ぎです。」



確か10分もやれば充分だっただろうと、ラビが呆れた様に言ってくる。

らしいけどね、と肩を竦めながら返して。


「ついでに自分の空気も入れ替えてた。」


流石に寒いし閉めようか、と笑って返したら、そうしとけ、と
ポンポンと頭を撫でられながら言われた。


そのラビの手の平が、思うよりも熱く感じて、
自分の体温が低くなりすぎたのか、ラビの体温が高いのか――・・・


考えるまでもなく前者だろう、と、少し反省気味に窓を閉めた。


外の微かな雑音が遮断され、密閉された少し独特の空間が出来上がる。


ラビが、ヨッとか言いながら人のベッドに腰掛けた。


「それで?何か用でもあったの?」


「用はねえけどさ、暇だったから来てみたんさ。」


「・・・せめてノックくらいして入ったら?」


別に今更驚きはしないけどさ。

一応、親しき仲にも礼儀ありって言葉があるでしょうに。


言うけれども、ラビは分かったんだか分かってないんだか。


多分、前者であり後者であり。


分かっちゃいるけれども実行に移す気は無いだろう
「次からはそうするさー」と言う気の無いお答えを頂いた。


・・・・コンニャロウ。


「んで、は空気の入れ替え出来たんか?」


「多分一応ね。たまにはのんびり外の風でも浴びないと、
 その内身体からキノコでも生えそうだわ。」


から生えるキノコか・・・かなりの毒性だろうなぁ」


「あっはっは、どういう意味かしら?」


「そのまんまの意味っしょ?」


悪戯っぽく笑うラビに、ちょっとムカついたから、
たまたま目に付いた枕をラビの顔目掛けて思い切り投げつける。


おっと、とか言って軽々と受止めるラビに、余計むかっ腹も立ったけれども
ああもうコイツの相手してて一々イライラしてたらキリがないわ、と
一度深呼吸して気を静めた。


そうしてから、一度ラビの事を見やって、
今度は一つの溜め息で、彼の隣に腰を降ろす。


「私の部屋に来たって、暇つぶしにはならないよ?」


「まあ、要はといる口実が出来りゃ良いんさ。
 あんま気にすんなーって。」


「・・・暇つぶしって口実になる?」


「暇は嘗めちゃあいけないさ。
 退屈は人を狂わせる事も出来んの、知ってっか?」


「いや、知ってるけどさ。」


そういう問題なのかなぁとか、何となく思ったけれども
これ以上突っ込んでも堂々巡りは間違いないから、そこもスルーで。


さっきから、会話が全部中途半端に終わるな、とか色々思いながらも
まあ良いか、いつもの事だし、と自己完結。


会話が其処で途切れて、沈黙が下りる。


それでも、居心地の悪さは特に感じなくて、ただ何となく
ぼんやりと2人、沈黙の中で過ごした。


冬の風が窓を叩く音。


廊下で、足早に過ぎていく足音。


遠くで聞こえる人の話し声。


それと―・・・


「寝るのはっや。」


すぐ隣で聞こえる、ラビの寝息。



少し静かになればすぐ此れで、どうせまた
昨日の夜読書にでも耽ってあんまり寝てないんだろうけれど。


不満が無いかと言えば、もちろん多少は、あったりする。



「・・・・落書きでもしてやろうかな・・・。」


当然、油性ペンで。

両目眼帯みたいにしてやろうかしらとか色々思うわけだけれども
結局は、考えるまでで行動には移さない。


・・・そんな奴の隣は、歩きたくないし。


それでも行き所の無い不満に、「えいっ」と額を弾いてやれば
ラビは「んっ・・・」とか、男のくせに下手に艶めいた声を出して眉を顰める。



そんな様子を、情けないんだか微笑ましいんだか、少し苦笑を漏らすと
グラリと、ラビの体は傾いて、こちら側に倒れてきた。


「・・・ちょっと、」


起きてるでしょ、と、少し低い声を出す。


倒れた身体はそのまま謀ったかのような動きをして、
ちゃっかり「よいしょ」とか言いながら人の足の上に頭を乗せてくる。


何で膝枕なんてしなくちゃならないのか―・・・


ラビは薄っすらと目を開けて、ニヤリと笑って見せた。


「寝てる人間に悪戯しようとするのがワリィんさぁ」


・・・・やっぱり起きてたか。


溜め息を漏らすを気にした様子もなく、
ラビはバンダナを首元まで下ろして来て、寝る気満々だ。


人の頭ってのは、何でこう妙に重いのか・・・


太ももにあるしっかりとした重みに、洋服越しに感じる
髪の毛の擦れる感触が擽ったい。



「ねえ、」


「ん〜?」


「起きてるなら、退いてよ。」


「んー・・・もうちょいぃ・・・」


「ラビ・・・?」


「んー・・・・」


は、もう一度溜め息を吐く。


今度こそ、ラビは眠りについたらしい。


穏やかな寝息を繰り返し、その度に、胸が小さく上下する。



「一緒にいる口実って言うか、人の部屋で寝る口実でしょ、実は。」


そして、実はこうして、人をその睡眠に付き合わせる為に
わざわざこの部屋に来たんじゃないだろうな。


少し苦笑しながらが言うけれども、答えは今度こそ、返らなかった。


ぼんやりと天井を見上げて、定期的に繰り返される、時計の秒針とラビの寝息。


少しして、欠伸を一つ。



「ラビ。」


「ん・・・?」


少し身体を揺すって呼べば、流石にまどろんだ様な声音で
ラビが返してきて。


「ちゃんとベッドで寝てよ、」


「・・・何でさ・・・」


「私も寝る。」


短く返せば、ラビは暫くそのままの体勢のままだったが、
やがてモソモソと起き上がって、そのままベッドに倒れこんだ。


その隣に、当然の様にも横になって。


まあ自分の部屋だし、当然なのが当然なわけだけれども。


少し考え込んでから、ラビの胸に頭を寄せれば、
やはりラビも当然の様に、キュッと抱きしめてきて。



「・・・体、冷たいさ。」


「毒性の強いキノコ生やさないように、空気の入れ替えしてたから。」



少し眠気を孕む声音で笑って言ったら、ラビからも笑いが返って来た。

身体が、その動きに合わせて少し揺れる。


それから少しして、額に一つ、口付けが落ちてきた。


呟くような柔らかい声音で紡がれたその言葉は、聞こえないふりをして。


「愛してる、」


「・・・・・。」


「おやすみ、。良い夢を」


「・・・うん。」


少し赤くなっただろう頬と、微笑んだラビの気配を感じながら


小さく一つ、頷いておいた。





ずっと あなた と在りたい
こんな何でもない日常も、貴方とならきっと幸せ。









special thanks[哀婉






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