ほろ苦くて、けれども甘い


そんな彼を、私は知っているから。


甘えるように、その腕に縋りつく。



―― ああ、彼には敵わないなぁと


時折、想いながら。









ビター・スウィート・ダーリン










「何か、ありましたか。」


雑談――と言っても、私が一方的にしゃべっていたに過ぎないのだけれど。


唐突にそんな事を言われて、私は黙り込んでしまう。


「・・・・なんで。」


ようやく絞り出した声に、リンクは「何となくですが」と、それだけ答えた。


そうと言われてしまうと、私はいよいよ、返す言葉を失くしてしまう。


リンクはいつもの様に難しい顔をして資料を読んでいるだけで、
何も言ってくれない。


困っている私も声を出せず、結果、沈黙の落ちた室内で
リンクが本の隙間から、チラリと私を見て――溜息を吐いた。


「別に、無理に聞きたいわけじゃない。」


困りに困って黙り込んだ私に気付いたのだろう。


気遣うように言われた言葉に、私は視線を落とす。



「・・・・違うの。」


「は?」


「どうしても・・・言いたくないわけじゃないの。」




ただ――ただ、少し





「色々あったから・・・・・ね、」




今言うと、少し。少しだけ。



泣いてしまいそう、だから。



震えそうになる声を抑える私を、リンクは難しい顔で見つめて。


溜息が、私の心に重く落ちる。



何か言おうと口を開きかけて、けれども、何を言おうか。



考えあぐねている内に、リンクは読んでいた資料から目を離さず、
私の目の前に、上品な色合いのハンカチを突きつけた。


咄嗟に受け取ってしまったソレに、私は戸惑うような様子で、リンクを見つめる。



「別に私は、自信過剰ではないつもりだが、」

「・・・・・・?」

「貴女が泣いた時、涙を拭う事くらいなら、出来るつもりです。」



リンクは資料を見つめたまま。



「勿論、貴女がソレを望むなら、ですが」




私はポカンとして、リンクから受け取ったハンカチを握り締めたまま。

そしてやがては、彼のその言葉に、泣きそうになりながら。



「何、ソレ・・・ちょっと、格好付けすぎじゃない?」


「・・・・・・。」


「・・・・・はい。コレ。」




誤魔化す様に笑った私に、リンクは言葉を返さなかったけれども。

私が机の上に差し出した彼のハンカチには、少しだけ、眉をひそめて見せた。



そんな彼の表情が、胸に何か、疼きを残す。



私はリンクの座る文机に、自ら椅子を引っ張ってきて、向き合う。



「私が持ってたら、涙は拭えないでしょう?」



小首を傾げて見せた私は、彼は驚いた表情を見せて。


パタンと資料を閉じた後、仕事中にだけ掛ける眼鏡を外して机に乗せると
机の上のハンカチを、自らのポケットに押し込んだ。



「別に、こんなものが無くても変わりませんが。」



そんな言葉を、先に添えてから。



「もう一度聞きましょう。」

「・・・・・うん。」




彼は机に肘を突いて。



目の前に座る私を、真っ直ぐな眼差しで、見つめた。



「何か、ありましたか。」

「・・・・・・あのね、」



彼の生真面目な――そして柔らかい甘みを含む問い掛けに


私はゆっくりと、言葉を紡ぎ始めた。