約束は、守るために存在する

あの言葉が 最期の約束だというのなら

守りたい 護りたい


守らなくちゃ ならないんだ・・・・



かないための
努力なんて らない



虚脱感が胸を襲う。

大切な人の死は、
幾つかの感情のサイクルを生むようだ。

失った 悲しみ

未だ消えぬ 愛おしさ

触れる温もりのない 虚脱感

何故そうならなくては成らなかったのかと 疑問

運命に或いは神に勝手に逝ってしまったアイツに 怒り

そしてまた、行き場のない怒りから 悲しみ



頭では理解しているつもりだ

ただ、心がそれを否定する

が死んだことなど、信じられるはずもない・・・・



「若い命を捧げた 英霊に 安らかなる眠りを―・・・・」


が、空へと消えた。
灰になる彼女の躯の入った柩。
その様を、瞬きもせずに見つめた。

熱くないか?なんて、馬鹿な問いかけはしない。

もう、何も感じることはないんだろう。

熱さも 寒さも 寂しさも 嬉しさも 悲しさも

どんな感情も、もう感じることは、ないんだろう?


「恋人が死んだのに、涙一つ流さないなんて」

「どんだけ冷えてんだよ、神田・・・」

ちゃんも、可哀想に・・・・」


後ろで同じように見ていたファインダーが、コソコソと話している。
はもう、完璧な灰になった。

少しだけ振り返って、そいつ等を睨んだ。
ファインダーは、短く悲鳴を上げて
何があるのか知らないが、地面の一点を見つめた。

何を言うでもなく、その場を立ち去った。

カツンと、靴の底が床に当たる音だけが
ヤケに大きく聞こえた。


「・・・チッ・・・」

廊下に響く舌打ちの音。

勝手にほざいていれば良い。
ダレに何を言われようと、関係ない。

俺はただ、約束を守りたいだけ。


ただ、それだけだ。


『ね・・ぇ・・・・ユウ・・
 私・・が・・・・死んでも・・・・泣かな・・い・・・で?
 そして・・・・生きてね・・・強く。
 もっと素敵な・・・恋人を作って・・・生きて・・・・
 強く 強く 生き・・・て・・・』


言葉の間に時折漏れる、辛そうな息の音。

赤く染まった彼女が、紡いだ最期の願い


『・・・・わかった。
 ・・・だから―・・・・・』


どうか、安らかに眠れ

もう、十字架に負われて生きる必要も無い。

安らかに、安らかに

これが、俺たちの最期の約束。




「死んだ奴は良いだろうよ・・・・」


何も、何も感じない。

だから、きっとお前には一生分からなかったんだろう。

残された者の苦しみが。

取り上げられた愛おしい温もりを、
狂おしく欲するこの苦しみを

一生 死ぬまで 知らなかったんだろう。


だから、言えるんだ。


”泣くな”なんて、約束を―・・・・



「無理なこと・・・言ってんじゃねぇぞ・・・」


体が、楽になれる方向に行こうとする

必死に止めた。

約束だ。最期の、約束だ




「・・・・おい、


これが、最期の願いと言うのなら

俺は一生、お前の為になんて、泣いてやらない。


「新しい女、作ってやるよ。
 テメェよりも、ずっと良い女だ」


死んでも、”泣くな”なんて約束をしないヤツを

俺が、”泣くな”なんて約束しなくてすむヤツを


「強く・・・生きてやればいいんだろーが」


強く、お前の事をいつまでも、覚えていれば良い。

ただ


ただ、今だけは―・・・



「約束なんざ・・・知るかよ・・・・」



勝手に、涙が零れてきた。


ただ、それだけだから




             ― fin...






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