紡げる言葉は少ないでしょう

それでもあなたを愛するでしょう






い破





「ラビにとっての普通って何?」

彼女は唐突に聞いてきた。

その問いに、ラビは呼んでいた本から目を離す。
彼女は自分の隣にいて、見上げるようにこちらを見ていた。


「何サ?いきなり」


「いや?なんとなくだけど」


どうなの?と首を傾げる

ラビが顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。


「・・・・隣に、がいること。」


それから、あくまでサラッと言ってやる。


言葉を理解するのに時間が掛かっているのか、ボケっとしているに、
わかった?と言って、ニコリと笑ってやった。


時間の動き出したらしいは、見る見る内に赤くなっていく。


そんなの頬に触れて、思わず笑った。



「笑うなバカ!サラッというなアホ!!」

「なんで?そう言って欲しかったんしょ?」



言って、その顔を覗き込んだら、
彼女は図星をつかれたせいか、言葉をつめて黙り込んだ。

それから、諦めたような息と共に、ラビの胸に頭を置く。



「正直、困った。」

「ん?」

「私も・・・なんだ・・・」


困ってしまった。だって



「ラビが隣にいるのが、当然なんだよ・・・・・」



自分たちの関係が始まる時に、前提としてあったのが、『別れ』だった。

それは、”死”が別ける場合もあるだろうが、少なくとも、ラビと自分が出会った時、
ラビは既にブックマンになる為の道を歩んでいて、
彼等は一時この戦争に身を寄せているだけで、
何れ戦争も終れば、彼もまた、此処を離れる。

それでも、と手を取り合った関係だった。


「ねえ、ラビ。」

「ん?」

「当たり前な生活を望むことって、
 こんなに難しいことだったっけ?」


ソファの背もたれに首を預けて、目元を手で覆った。
”別れたくない”とか、素直に口にできる関係なら良かった。


肩に、ラビの手が乗る。
そう思うと同時に、ラビの体重が少し掛かって、そのままの体勢でキスをされた。

唐突なキスに驚かなかったわけではないが、
それでも、そのまま受け入れる。

温もりが伝えば、唇は離された。

腕で目を覆っているから、ラビの表情は見えない。


恥ずかしいとか、そういう感情よりも、良くこの体勢で出来るもんだな、と

なんだか、妙に感心した。



「多分さ」


言われて、腕を外す。

思いがけず泣きそうなラビがいて、何も言えなくなった。


「本当は、普通の生活とか、当たり前な事を願うんて
 すごく難しくて、贅沢な事なんサ。
 気付いてないだけで・・・きっと・・・すごく・・・」



それから、2人しばらく、何も言わなかった。

ただ、沈黙が部屋を占めている。

気まずいと言うよりは、そんな感じで、
何かを考えようとしても、思考が纏らなくて、何も考えられない。

混乱した無意識で、沈黙が続いた。


『出会いがあれば別れもある』なんて、ありがちな言葉。

それは不変の真理だけれど、そんな言葉で片付けられるほど
人間の感情が簡単に出来ているなら、どれだけ楽だと言うのだろう。




「ねえ、ラビ」


「・・・・・。」


「一緒に・・・いたいね。」


先の未来で、当たり前の様に、君の隣で―・・・

叶わないと分かっていても、それでも

人は儚い望みすらも抱かずに生きていけるほどに強くなど、ない。


「当たり前の中にいたい・・・・」


埋めたラビの胸の温もりに縋った。

分かっているんだ、叶わないことなんて。
望むことすらも許されないようなことだなんて。


いっそ理不尽だと、世界や運命に嘆こうか。


それでも結局、自分たちは終局に向けて戦い続けるだろう。


世界や、他人の運命の為に。


壊し続けるのは、自分たちの儚い望み

共に居たいと願う心。





私たちは、世界に甘い破壊者だ。



                    ―fin...








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