俺には、可愛い妹がいる。

名前は、――・・・・







綺麗な 麗な
になれ






は、俺と13歳も歳の離れた妹。
今年で5歳になる。
これがもう可愛いのなんの。
肉親が俺一人だから「お兄ちゃん」なんて言って
懐いてくれてる・・・・



ハズだ。



実は、最近どうにも行動がおかしいのだが・・・・



ー。一緒に寝ようかー?」

今日も、俺はにそう言って、ベッドにもう一つ枕を置く。
けど、は勢い良く首を横に振った。

「ううん!は一人で寝ます!!」

「へ?」

その言葉に、思わず屈めていた腰を起こす。
下ろした髪が目に掛かって邪魔だった。

しかし、
「おやすみなさい」とお辞儀して、
自分の部屋に戻ってしまった。

(またか・・・)

参った・・・
頭を掻きながら思う。


最近、どうもがおかしいのだ。

たとえば――・・・

ー。洗濯物あるかー?」

尋ねれば、

は今日から自分でお洗濯します。
 お兄ちゃんのとは洗いません」

言われてしまうし、

ー。一緒に寝よー」

言えば、

「お兄ちゃんはお髭が痛いので嫌です。」

髭生えてないし、

極めつけは・・・・

ー。たまにはお風呂一緒に入るかー」

「お兄ちゃん、それはせくはらです」

セクハラかー・・・・


(まぁ、アレだな、これは俗に言う・・・)

反抗期・・・・

まさにそれだろう。

「そっれにしても
 セクハラなんて言葉、どっから覚えてきたんだよ・・・」

実は少し凹んでたりするんだよなぁ・・俺。

だって、セクハラって・・・・

アイツ、まだ5歳だよな・・?










お兄ちゃんは、を甘やかしすぎだと思います。

はもう、一人で眠れます。

はもう、一人でお風呂に入れます。

はもう、お洗濯も出来ます。

寂しいときもあります。

でも、そんな時、お兄ちゃんはいつもお仕事です。

だから、あまり甘えてはいけないのです。


「お兄ちゃん・・・・」


寂しくても、甘えたらきっと
会えないときにもっと悲しくなってしまいます。














ー。お兄ちゃん、
 また任務になっちゃった・・・・」

俺は言う。
今回は、本当に可哀想だ。

今日は、の誕生日なのに・・・・

いつもは、コムイも気を使って
にとって大事な日には任務を入れないんだけど・・・

今回は、人手が足りないんだそうだ。

「いいです。
 お仕事、頑張ってください。」

仕事の前だけは、は笑顔でいてくれる。

でも、さすがに今日は悲しそうだ。

「ごめんなぁ・・・・
 帰ってきたら、お祝いしような。」

「大丈夫です!
 それよりも、ちゃんとお仕事に専念して下さい。」

難しい言葉覚えてきてるなぁ・・コイツ・・・・

ポフッと頭に手を置く。
細くてサラサラした髪が、気持ちよかった。

「うん。帰りにおっきいケーキ買ってきてやるサ。」

「はい。楽しみにしてます」

俺は、後ろ髪引かれながらもその部屋を出た。















ほら、やっぱりお兄ちゃんは、
一緒にいて欲しいときに任務です。

だから、こうやっては泣くんです。

「・・・ひっくぅ・・・・」

お誕生日は、いつも一緒にいてくれたのに・・・・

お仕事だから、仕方ないです。

お兄ちゃんは、世界のために頑張っているから

仕方ないです。

わかってます。

「っふえぇ・・・・」

だけど

お兄ちゃんがお仕事の時は

いつも泣いてしまいます。

リナリーお姉ちゃんも、遊んでくれるし、
コムイお兄さんも、いろんな言葉を教えてくれます。

それでも、やっぱりお兄ちゃんがいないのは

悲しいんです














「なぁ、ユウ・・」

「ぁ?」

任務は簡単だった。
ユウとペアの任務だから、事は順調に運んで・・
何とか、今日中には帰れそうだ。
任務先で一番おいしいお店の大きいケーキも買った。
のダイスキな、チョコレートケーキだ。

だけど、列車の中で、少し、疑問に思った。


って、いつから敬語使うようになったんだろうなぁ・・・」

「知るかよ。
 それを知ってんのは、兄であるテメェだろ。」

「・・うん・・・」

そう、俺が知ってなくちゃいけねぇのに・・・

が物心付いた時から、コムイとかに任せる事
多かったし・・・
あんなに小さくても、気ぃ遣ってんのかな・・・

「俺って、兄貴失格だよなぁ・・・」

「・・そう思うなら、
 もう少ししっかりしてやれ。」

まさか、ユウに言われると思わなかった。
でも、その通りだ。

「だな。」

俺は今、きっと情けない顔だ。

















泣くのに疲れて、は少し寝ていたようです。
起きたら、窓の外は真っ暗でした。
外では、雨が降っています。

お布団をかけてなかったからでしょうか?
寒いです。
でも、体がとっても重たくて、
指を動かすだけでも、とても痛いです。

息が苦しくて、ゼェゼェ言います。

苦しくて 苦しくて

お兄ちゃん

は、死んでしまいそうです・・・・・










まずった!
昨日の大雨で、列車が6時間くらい留まりやがった!
おかげで、帰ってこれたのは結局次の日だ。

!悪い、今帰って―・・・・」

ケーキを抱えて、真っ先にの部屋の戸を開ける。
けど、そこにはいなかった。

開けっ放しの窓。
少し乱れてるベッド。

それだけで、がいない。

・・・?」

呟いてみる。

肩に、手が置かれて振り返ると、リナリーがいた。

「ラビ。あの、ちゃんなんだけど・・・・・」







俺は、本当に兄貴失格だ。
ベッドの上で寝てるに、申し訳なく思う。

朝、いつもの時間に朝ごはんを食べに来なかった
心配してリナリーがの部屋を訪ねたところ、
部屋でうずくまるを見つけたのだそうだ。

熱は、39度。
の平熱が低いのに関係なく高熱。
は、この医療班に運ばれたらしい。

今は、薬のお陰で熱も下がって、呼吸も落ち着いているが、
は喘息持ちだし、呼吸困難だってあっただろう。

苦しかったはずだ。

髪を撫でてやると、は目を開いた。

・・・」

「お兄ちゃん。」

が、ニコリと微笑んだ。

「おかえりなさい」

「・・・あ・・・ぁ・・・」

咎められるかと思ったのに・・
は、俺に笑いかけた。

「悪い、本当に・・・。
 ケーキ買ってきたから、あとで食べような」

「大丈夫です。お兄ちゃんは
 お仕事ですから」

その瞳を見て、思った。

俺は、諦められている。

・・・」

「お兄ちゃんは、世界のために戦ってます。
 は、それがとってもカッコイイと思います。
 だから、平気なんです。」

その真っ直ぐな瞳が、
すごく、悲しい・・・・

けど、「だけど」と続けたの言葉に、
思わず驚く。

は、お兄ちゃんがお仕事に行くと
 いつも泣いてしまいます。」

・・・?」

「お兄ちゃんが、お仕事で帰ってこなくても
 大丈夫なように、はお兄ちゃんに甘えないように
 毎日毎日、頑張っています。
 けど、それでも泣いてしまいます」

の瞳に、大粒の涙が浮いてきて、
頭を撫でてやりながら、の話を聞いた。

は、お兄ちゃんがいない時
 とても寂しいです。でも、それはお兄ちゃんの
 お仕事の邪魔になってしまいます。
 だから、毎日、なるべくお兄ちゃんに甘えないように
 してきました。でも、泣いてしまいます。
 ・・・お兄ちゃん。
 どうすれば、は泣かずに済みますか?」

それを聞かれて、俺は困ると同時に悲しくなった。
そして、今までの様子がおかしかった事に、納得がいく。

でも、そんなに俺は、
から見ると、頼りない兄貴なんだな・・・

・・・」

「はい。」

「そうしたら、我慢しないで、泣きな」

「ぇ?」

俺の答えに、は信じられない、という顔をした。

「お兄ちゃんは、迷惑じゃないサ〜。
 は、まだ小さいんだから、泣きたいなら泣けば良い。」

「でも・・・」

「それに、もっと甘えた方がいいと思うサ。
 いつもは一緒にいられないんだから、
 その分、もっと甘えておいで?
 そっちの方が、お兄ちゃんも嬉しいな〜」

のヤツ、疑わしそうな目をしてる。
だから俺は、の小さな額に、キスをした。

「ごめんな、いつも一緒にいられなくて。
 誕生日にも、一緒にいられないし、
 が苦しい思いしてても、気付けなかった。」

の目からは、ずっと涙が流れてる。

「あんまり、兄貴らしい事してないけど、
 それでも、のお兄ちゃんだから。」

は、頷いた。
「はい。」と、小さく呟いて、
涙を流しながら。

「んじゃ、早く元気になれよ、
 のダイスキなチョコレートケーキが待ってるサ」

「はい!」

で、やっとが笑ったから
少し疑問をぶつけてみる。

「ところでさ、。」

「はい?」

「お前、『セクハラ』なんて言葉
 誰に教わったん??」

まぁ、どうせコムイ辺りだろうけど・・・

けど、答えは少し違った。

「リナリーお姉さんです」

「リッ・・・」

リナリーかぁ・・・・
思わず答えに詰まっちまったサ・・・

「お兄ちゃん?」

掠れた声で、尋ねてくる。
俺は、に布団を掛けなおしてやって、笑った。

「なんでもねぇ。
 さ、早く寝な?」

「はい・・・。
 お兄ちゃん、もう少し、ここに居てくれますか?」

布団を目元まで上げて、が言う。
そんな姿が、ものすごく可愛い。

「あぁ。が起きるまで、ここに居てやる。」

そういうと、は安心したんだろう。
ニコリと笑った。

「おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ」



 









俺には、可愛い妹がいる。

名前は、――・・・・


は、俺と13歳も歳の離れた妹。
今年で5歳になる。
これがもう可愛いのなんの。
肉親が俺一人だから「お兄ちゃん」なんて言って
懐いてくれてる

俺は、兄貴らしい事、一つも出来てないし

いつも一緒にいてやる事すら出来ない、
兄貴失格のヤツだけど、でも・・・


「お兄ちゃん」


そうやって、微笑んでくれるがいるから。

俺もまた、頑張れる。

そうやって微笑んでくれるから、

絶対に、は守ってやる。

そして、に助けられて、
のことを守って・・・・・

の成長を見届けていきたい。

そんで、今はまだ
小さい芽だけどさ、

いつか


綺麗な綺麗な花になれば、

俺も、うれしーな。


な、


                           ―fin...

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