天気は 雨

気温はお世辞にも高いとも言えず

湿度もまた、快適とは言えない

出来れば出歩きたくないような今日の日。


何故この女は、人の部屋のベッドで寛いでいるんだろう



な た ぼ っ こ 。




「あのー・・・ちゃん?」


「なーに?ラビ」

声を掛ければ、うーんと唸ってもぞりと動く。
ベッドのシーツに皺が増える。

「部屋、間違えてない?」

「どうして?」

「此処、誰の部屋か分かってる?」

「・・・・・・・ラビの部屋」


答えはちゃんと返ってきた。
・・・と言うことは、一応ダレの部屋かは分かってるらしい。

「・・・じゃぁ、なんでそんな
 我が物顔でベッド陣取ってるんサ・・・・」


まるで自分のものだと言わんばかりに、
はベッドの上、大の字になっていた。

「”なんで”と問われても・・・
 単に私がひなたぼっこをしに来ただけだよ」

「・・・・・は?」


いきなりワケのわからない事を言い出す。

今日の天気は雨。

気温はお世辞にも高いとも言えず

湿度もまた、快適とは言えない

出来れば出歩きたくないような今日の日。

・・・・・だというのに・・・・

抜け抜けと”ひなたぼっこだ”と言い放った
この女の考えが知れない。

・・・ワケわかんねぇ事言ってないで、
 部屋戻った方がいいサ・・・
 任務帰りだろ?疲れてるんじゃ・・・・」

「疲れたから此処に来たんだよ」

ふぅ・・・っと溜息を吐かれる。
駄々をこねる子供の様に言う彼女に
ラビもまた溜息を付いて、仕方なく彼女の眠る
ベッドの下に腰掛けた。
背中をベッドの淵に預ければ、上のほうで
布の擦れる音とスプリングの音が軋む音。

「ねぇ・・・ラビ・・・・」

「ん?」

頭上から、声。
どうやら彼女がモゾモゾと頭の上まで
体を動かしてきたらしい。

「私たちのやってる事って
 本当に意味あるものだと思う?」

突然の問いかけ。
ラビは、ぼんやりと窓の外を見上げた。
雨の音が耳鳴りの様に聞こえて、煩い。

「・・最近、任務から帰った後に良く思うんだよね。
 ボロボロになって、必死になって戦って・・・・
 私たちがしている事って、本当に意味があるのかなーって。
 だって、千年前に、一度人類は滅んだんでしょう?」


今回もまた、負けるかもしれない。

だって、この戦争に一度は負けているのだ。

だったら、幾ら足掻いてもムダなんじゃないか―・・・・



「でも、もしかしたら勝てるかもしれない。」



ラビは、ゆっくりとした口調で言った。
心地良い低い声が、部屋に響く。

「負けるかもしれない。でも勝てるかもしれない。

 ”やれば出来る”なんて、嘘でサ、
 それは単に、やらなきゃ出来る可能性すら無くなるだけで
 世の中には結局、出来ないことなんて山程ある」


雨が煩い。
それでも心地良い雑音。


「出来るかもしれないんだったら、やってみればいいんサ。
 ダメだったらそん時考えてみれば良いんだよ。
 諦めるのは簡単だけど、続けるのは大変だけど・・・

 大切なものを守りたくて、足掻くことすら許されないんだったら・・・
 人間なんて、滅んじまった方が良いかもな」


それは、冷たい言葉にも聞こえて
でもそれは、なにより温かかった言葉。

だって、大切な物を守る努力すら許されない世界

そんな物、悲しすぎるから――・・・・


「だから俺たちは今、戦ってるんだろ?
 大切なもの守りたくて、足掻くために」

大きな手が、頭を撫でる。
暖かい、大好きな手。

ニコリと、優しい笑顔が向けられる。
愛おしい、大好きな人。


無駄なことだと、哂われても

意味の無いことだと、罵られても

それでも、守りたいんだからしょうがない。
失いたくないから・・・・・

「うん」

答えては、起き上がった。

「ラビを失わないために、頑張ってる」

「はいはい。甘い言葉ありがとー」

「・・・・流したね?」

わざわざ恥ずかしいのを我慢して言ったのに、
サラッと流すもんだから、気に入らない。

むぅっと膨れてみせれば、笑われて。

「ラビのバーカっ」

腹立たしかったから枕を振り上げたら、顔面に直撃した。
まさか直撃するとも思ってなくて、
振り上げた本人のくせして、「ダイジョウブ!?」と心配する。
そこでまたラビが「怪力ー」とかなんとか言うものだから、
お互い、低レベルな言い争いが始まって・・・

いつもの2人の時間が、過ぎ去る。
窓を打ち付ける雨は、少しだけ、弱くなった。

最期の方は、3歳児の喧嘩かとツッコミたくなる内容で。
いい加減馬鹿らしくなって、一緒になって噴出して・・・・

結局、喧嘩は此処まで。

その後は、どちらとも無く口付けをする―・・・・


「さぁって、んじゃぁ
 日向ぼっこで充電完了もしたし、私は部屋に戻るかなーっ!」

「だっから、日向ぼっこ出来る天気じゃないって。」

まだワケのわからない事を言ってる。と
ラビは呆れた声。
でも、は笑って立ち上がると未だ座ったままのラビに
触れるだけのキスをして部屋の扉に手を掛けた。



「日向ぼっこだよ。私だけのね」

「はぁ?」

「私の太陽は、どんなに雨が降ってても
 365日、此処に居るの」

そう、極上の笑みを残して
は、バイバイと部屋を出た。

「だっから・・・
 わけわかんねぇって・・・・・・・」


一人残されたラビは、頭を掻くだけなのだが・・・

廊下を歩くは、口元に笑顔を浮かべて
先程とは打って変わった、晴れ晴れした笑顔だった。




今日の天気は雨。

気温はお世辞にも高いとも言えず

湿度もまた、快適とは言えない

出来れば出歩きたくないような今日の日



本日のひなたぼっこは

優しい笑顔の 暖かい手をした太陽の元で

させて頂きました。



             ― Fin...




ラビ同盟様に99%の愛と1%の雑念を込めてお送りした夢。

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