例えばココは


無意味なモノで出来上がる


ゴミの山。


例えばそれは

建物であり


車であり


人間である。








人の ふたり、
に吹かれて







温かい風が、優しく頬をなぜる。
その風に乗って運ばれてくるのは、
街の人々の賑わいの声や、家々から漏れる、
夕食の準備をする匂い。

ココは、とても良いところ。

この街を一望できる。

この丘は良いところ。

街に住む人々を一日中眺めていられる。

この丘は良いところ。

一部の人間達にとっては・・・


普通の人は、こんなところ寄り付かない。

だって、この丘に広がるのは
並ぶ十字架たち。

墓地なのだ。

それも、誰のものだかもわからない、
誰の手入れも受けていない、朽ちた墓地。

誰も寄り付かない。

普通は・・・




「あっ、アレ、同じ学校の奴らだ。」


それだと言うのに、
一人の、まだ幼さの残る少女は、その墓地を背に、
見晴台の手すりに頬杖をついて、街を観察している。

「ん〜・・?あぁ。どっかで見たと思ったら、
 同じクラスの奴らか。あっはは。バッカみたい。
 そんな洋服、アンタには似合わないよ。」

ココになら、誰も寄り付かない。
少女・・・は、それを知っているから、
気に食わないその少女達の悪口を、思う存分はいてやる。

「ぅっゎ・・お前ら・・そのピンクのレースを着る気か?
 止めとけよ・・・。お前ら、どうゆう体型してるか、
 自分で理解してないの??」


は一人で、街のあるお店のカートに入った
洋服の品定めをする同級生達に突っ込みを入れる。


「うん。確かにアレは似合わないよねぇ〜。」

「そうだよね〜・・・・へっ!!?」

突然横からした声に、は身を強張らせた。

ここは、普通のヤツは寄り付かない。

勢いよく振り返れば、自分と同年齢くらいの
少女が立っている。

「あ、あんた、い、いつから、そこにっ!!?」

「ずぅっと前からいたよぉ?気付かなかったんだぁ」

少女はクスクスと笑う。

「ここに、何か用でもあったの?」

「別にぃ。ただ、ココに来たら眺めよさそうだなぁって
 思っただけだよぉ。まぁ実際眺めいいしねぇ」

「ふぅん。最近ココに来たわけ?
 ここ、気味の悪い場所って事で有名だよ?
 この街の人には。」

「蓼食う虫も好き好きぃって、よく言わないぃ?
 それにさぁ、アンタだってココに来てるじゃん」


少女は、手すりに頬杖をつきながら言う。
は、ソレもそっか。と笑った。

「あっ」

「へっ!?ど、どうかした?」

「あんた、そうやって笑ってると可愛いね〜」

「はぁっ!!?」

突然の、言われなれない言葉に、
素っ頓狂な声を上げる。

「うん。そのちょっと赤くなった顔も
 なかなか、なかなか。ねぇ、名前なんて言うのぉ?
 僕、ロードって言うんだぁ」

「わたし?。」

「ふぅ〜・・ん。・・・ね。
 ねぇ、はさぁ、この街が好きなのぉ?」

「ぇっ・・・」


思っても見なかった質問に、は動きを止める。


「なんかさぁ、雰囲気が他の人間と違うんだよねぇ。
 なんか、どうでもよさそうな感じが出てるんだけど?」

「だって、どうでもいいからさ。」

は言い切った。
今度は、ロードが動きを止める。

「この街って言うか、この世界が嫌いだよ。あたしは。
 人間なんて、みんなガラクタだ。
 人間が作り出した、この世界も、ガラクタばっかり。
 ガラクタが溢れた世界なんか、嫌いだよ。
 って・・ごめん。ロードは、そうでもないよね?」

が尋ねると、ロードは突然笑い出した。
さもおかしそうに、腹の底から。

「????」

が、首をかしげていると、ロードは
まだ笑みの残る声で言った。

「あ、あんたイイねぇ。気に入った!」

「はぁ???」

「僕も、こんな世界、大ッ嫌い。
 人間なんて、ヘボヘボだもん。」


そう、無邪気な笑顔でロードが言うので、
は一瞬呆けてしまい、それから、
目の前の少女に負けないくらいの
無邪気な笑顔で笑った。


「だよね!」






その後は、とにかく話した。

今日会ったのが初めてだなんて、思えないくらい。

が、小さい頃両親をなくして、
そのせいで日本から移ってきたこととか、

そのせいで、学校の子達とはあまりおりが合わない事とか。


伯爵の持ってる傘が喋るって言ったら、
最初は驚いてたけれど、その後すぐに見てみたいって、
目を輝かせて言われた時には、思わず笑った。


って、変なヤツ。」

「あはは、よく言われるよ」

あたりはそろそろ闇に包まれる。

街の家々には、ポツリポツリと明かりが灯り始めた。

「もうそろそろ、帰らなきゃ・・。
 ねぇ、明日も会えないかな?」

「明日ぁ?うん。いいよぉ。」

夕日は、完全に姿を隠した。
まだ薄暗いあたりに、夜の冷たさを含む
風が、優しく流れる。

二人の黒髪を、そよそよと流した。

人の子がふたり、風に吹かれるその様は、
どこか微笑ましく、また、穏やかだった。

「よかった。
 ありがとう。なんか、久しぶりに楽しかったよ。」

「僕も、楽しかった・・かな?」

「じゃぁ、明日ね!」

は、笑顔で走り去る。
その背に、ロードは言った。

「明日は、レロ持ってきてあげるよぉ」

「楽しみにしてる〜〜!!!」



返ってきた言葉に、ロードは笑顔になり、
それから、一人呟いた。

「どうしようかなぁ〜」

風が言葉をさらって、街に流れていく。

「かなり気に入ったかも。」

ロードは苦笑いをもらした。

ありえない・・と。

彼女のいる世界なら、あってもいいかもしれないなどと
思ってしまっている自分がいるのだ。

この世界を、終幕へ向かわせようとしているのに、
それでも、そんなことを思ってしまった。

心でどんなに、否定しても、きっとまた明日も、
自分はここにやってくるだろう。

彼女が見たいと言った、喋る傘を持って、
そして、彼女の笑顔を見たら、どうしようもなく
嬉しくなるのだろう。

でも
それでもいいかもしれない。

この世界で、最後の楽しい思い出が、

彼女との、この一時なら、それもイイ。


ロードは笑んで、家に帰ることにした。

いつまで続くかわからないこの世界で、
彼女に出会えたことに、少しだけ喜びを感じて。


日が続く限りは、この
風が優しく包む丘に、来てみることにしようと決めて・・・・



                                 ―fin...




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