「愛している」と君に何度も呟いた


「信じてる」って君に何度だって言った



コトバなんて とても 愚かなものだね・・・


君に向けたコトバは 今は 空に溶けるだけで

求めてしまった温もりは 僕に大きな傷跡を残した



ねぇ
 君にこの声は聞こえてる―?


僕にはもう
 君の姿は見えないけれど

でもいつかまた
 君に会えたなら・・・・


もう一度
 君は微笑んでくれますか―?


君を救えなかった僕の事
 許してくれますか――・・・・・?






人分の 場所






黒の教団本部の裏にある森の中の、ずっと奥にある開けた場所

地面から顔を出している大きな石や、
倒された木々には、薄緑色の苔が覆っている。

真ん中には、大人が10大きく手を広げて、
やっと囲うことが出来る位に太い幹の巨木。

まるで、何かを抱きしめようとしているみたいに、
大きく大きく、そのしなやかに伸びる枝を、四方八方に広げている。

木漏れ日はチラチラと、生える
野の花や、ひょろりと伸びる草を照らしていて・・・



あぁ・・ココはいつも変わらない・・


いつでも、空は澄んでいる

いつでも、風は清いまま

いつでも、穏やかな時が流れてる。


それなのに、
僕の時は止まったままで・・・





・・・君はよく、この木に登ってたよね・・・
 下から見ている僕は、冷や冷やモノだったよ。」


コムイは、今はもう無い人影を思い出して、クスリと笑みを漏らす。

「君が足を滑らせた時は、本当に驚いたんだからね。
 あの時、君を受け止めた僕を、君ってば、すごく驚いた顔で見るんだもの。
 少し心外だったんだよ?僕だって、それなりには動けるんだからさ。」



でも、僕は普通の人間だから・・・

どうして、あの日僕は、

こんな風にして、君を受け止めてあげることが


出来なかったんだろう・・・?














は、エクソシストだった。

いつでも明るくて、疲れなんか人に見せなくて、

科学班のほうにも、よく手伝いに来てくれていた。

と、コムイが出会ったのも、
ある日、が科学班に手伝いに来てくれていた時。

自分の場所を作るのが得意な君。
この森の中の場所を探したのも、君だったね。

「ここは、コムイと私だけの秘密、ね?」

あの時の君の笑顔も、とても穏やかだった。

コムイとだけの場所。
彼女が、自分にだけ教えてくれたその事実が、
すごく、嬉しかった。

いつしか、の居場所は、コムイの隣になっていた。

コムイの隣と、この穏やかな二人だけの場所が、
彼女の居場所になっていた。

のいる場所は、いつでも穏やかで優しい。
だから、君がいないと、とても不安になる。

彼女が任務に行く時は、必ずを抱きしめて、
すると、は必ず言うのだった。

『愛してる』と。

それに答える為に、コムイはいつも言った。

『信じてる』と――・・・











コムイは、ある一角の、少し黒ずんだところに手を置く。

「何も・・・出来ないくせに・・・」

絞り出した声は、自分を責める言葉。



あの日も、コムイとは、一緒にココに来ていて、
でも、突然AKUMAが現れて、彼女を奪っていった。

自分を守って・・・。

自分は、彼女達と違って、何も出来ない。

ソレなのに、彼女を・・・を愛してしまった。



風が、優しく吹く。

揺れる木々の擦れる音が、まるで、泣いているようだった。


いや、
実際泣いていたのだろう

コムイの心と同じように、自分の隣に、
ぽっかりと大きく開いてしまった、一人分の居場所を


嘆き、悲しんでいるのだろう


何も出来なかった自分に







「愛している」と君に何度も呟いた


「信じてる」って君に何度だって言った



コトバなんて とても 愚かなものだね・・・


君に向けたコトバは 今は 空に溶けるだけで

求めてしまった温もりは 僕に大きな傷跡を残した

もう、ここで君とは会えないけれど

でもいつかまた
 君に会えたなら・・・・


もう一度
 君は微笑んでくれますか―?


君を救えなかった僕の事
 許してくれますか――・・・・・?


「ねぇ、
 この声は君に、聞こえてるかな・・・・?」



                         ―fin...



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