偽りだらけのこの世界

綺麗なものなど無いけれど

愛したものなら、星の数

小さな両手じゃ収まらないの。




だから、




空が晴れ渡っていた。

淡い水色が、ずっと遠くの方まで広がっていた。
いっそ眩暈がするほどに、透明で高い空。

薄い雲が、ただ何となく流れていた。


「良い天気さなー」


そう言って、となりのラビは大きく伸びをする。

気持ち良さそうに目を細めて、大きな手が空を仰ぐ。

自分より身長の大きな彼なら、その空に触れる事が出来るような気もしたけれども
手の平はただ上を向いて、真っ直ぐに伸びるだけだった。

地面に、濃い影が落ちてくる。


「暑い。日に焼ける。部屋に戻りたい。」


そんなラビとは対照的に、は面倒くさそうに答えた。

ラビは、呆れたような息をつく。


「おっ前なぁ・・・少しは話合わせろって。」


「めんどくさ・・・」


「めんど、って・・・・」


なんか、身も蓋も無いような事を言う。

めんどくさいで人間関係投げられたら
そりゃ楽な事だろう。


「・・・大体、そんな気にしなくても
 今のままで全然肌キレイさ。」


「日々の努力を怠る者は泣くのよ、ラビ」


の答えに、ラビはより一層ムスっとした顔をして、
けれど、当の本人は気にしない。


「んっとに・・・は文句ばっかさな。」


「そう?」


「そう。雨が降れば髪が撥ねるとか、曇れば視界が悪いの紫外線が強いの。」


「ああ、雪が降れば寒い、とか?」


くすくす笑って言ったら、「そう!」と大声が返る。


「結局お前、何なら良いんさ!」


「どれも良くない。全部ヤダ。」


そりゃもうどうしようもないわ。


ラビがガクリと肩を落とした。

そんなラビを横目で見ながら、
嗚呼、本当に自分たちは対照的だなと思う。


自分は、何があっても億劫で、
ラビは、陽が出ればキレイだって言うし、雨が降れば気持ち良いって笑う。
雪が降れば、犬コロ宜しく走り回るし・・・


よくもまあ、こんな正反対の2人が付き合っていられると思う。


自分は、何だかんだ言いながら
ラビのそんな所も嫌いじゃないわけだけど


彼にしてみたら、こんな女と居ても、楽しくないだろうに。


それでも居るんだから、彼は物好きだ。


・・・・もしくは相当のマゾか・・・・?



「なあ。その卑屈、どうにかなんないんさ?」


「ははっ今更ムリだって。」


それから、空を見上げる。

高くて、眩暈すらするような透明な空。

大きく広がる、滲む青。

油断したら、取り込まれてしまいそう―・・・


「私は・・・さ。
 ラビみたいに、『世界は綺麗だ』なんて、言えないし」


人間は結局、醜くて

エゴの為に人と付き合い、泣くし、笑うし、怒る。
ただ利便の為に自分の立つための大地を傷つけて、
わざわざ自分の肩身を縮めてる。


そして、そんな人間を受け入れたこの世界も、
また醜さに染まっていく。

それは、して言えば美しい物なのかもしれないけれど
そんな慷慨的な美、自分は好まない。



―― この世界は、美しくなんて無い。




フと映したラビの顔は、諦めるような、呆れるような表情で、
それには、流石に胸が痛んだ。


「つまんねー生き方。」


言って、ラビは「戻ろ。」と踵を返す。

あくまでも自分を誘うように言うけれども、
ラビの背中は、一人遠ざかっていく。


風が吹いて、髪を流した。


自然と心を湧かせる様な、この重たい夏の風も
自分は嫌いだ。


大っ嫌いだ。



洋服の裾を、強く握った。


「ラビ!」



名前を呼ぶ。

不思議そうに、ラビは振り返った。

自分を見つめてくる灰色の瞳は、陽の光を受けて黒に近い色になる。

闇に成りきれない夜の様に不完全で、透明で


油断すると、吸い込まれそうで



負けないように見つめ返して、精一杯、微笑んでやった。



「私、星空なら好きよ」



全てを覆い隠す闇の中

星の光だけは、変わらずこの大地に陰を落とす。

人工の明かりに殺されてしまう光もあるけれど
人の手によるものなんかに負けない強い光は、大地に堕ちる。


人の声も、全て闇が飲み込んでしまったように静かで―・・・


今見つめるラビの瞳に、良く似てる。


不完全な夜の闇


「髪の毛も撥ねないしね」



おどけて言って見せた。

ラビがポカンとした表情で自分を見つめている。


けれども、すぐにニッコリと微笑って返した。



「今日の夜、また散歩に出っか。」


「・・・・付き合ってあげるよ」



差し出された手に、自分の手を重ねて

陽の下を、2人で歩いた。

自分を照らして、大地に濃い影を作るこの陽の光も嫌い。


大嫌い


でも、貴方の笑顔は、好きだから


だから、今日の星空は、少しだけ楽しみにしてあげる。




                         ― fin,,,






special thanks[哀婉

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