別に、今日じゃなくても良いか、と思った。

そりゃ欲を言えば、今日が良い。

けれども、任務で遠くの地へと趣いている彼女に
ソレを言うのは、少々酷だ。


だから、別に今日じゃなくても良いか、と思った。


彼女が無事に帰ってきて、あの笑顔で言ってくれるのなら
いつだって良いか、と思った。


彼女が笑ってくれるのは、
自分にとって何よりも嬉しい事だから。


だから別に、今日じゃなくても。


彼女が無事で帰ってくることが、
何よりも先決なのだと思った。



だから、深夜。



ブレーキの音が聞こえてきそうなほど
猛烈な勢いで部屋を訪ねてきた彼女には、目を瞬かせるばかりだった。


しいばかりの







「え・・・は?ちょ、
 に、任務から帰ってきたんさ?」



読んでいた本をそのままに、呆気に取られて尋ねる。

彼女は余程急いで帰ってきたのか
ゼーハーと肩で息をして、無言で数回頷いた。


そして、部屋の中に入ってくると、
少し縒れた、けれども綺麗に包装された包みを、ボスっと胸に押し付けてくる。



「え、こ、これ何さ?」


「プレゼント。誕生日の。」


「はぁ・・・・・」


「汽車が、雨で遅れて。
 今日の夕方帰れるはずが、この時間に。」



チ状況を把握し切れていない自分に、
ようやく整ってきたらしい息で、言い切る


渡された包みがプレゼントである事は分かった。

彼女が本当はもっと早く帰ってこれるはずだった事も。


ついでに。


「もしかして、直行でここ来た?」



彼女の団服はボロボロで、
かすり傷程度のようだが、傷の手当をした様子もない。

は、少し照れたように視線を落としながら、
拗ねたような口調で言った。


「兎に角、今日中に渡したくて。」



本来なら、直行すべきは室長室だろうに、
まったく彼女は、本当に愛おしいったら。


思わず噴出して、適当にそこら辺座って、と促す。



「そのくらいの傷なら手当してやるさ。
 後で怒られそうだけど、折角だし、残りの時間は此処にいて?」


今日と言う日は、あと数時間。


それだけでも、自分にとっては十分だ。


だって、別に彼女が来てくれるのは、
今日じゃなくても良かったのだから。


それが今日、わざわざ、超速攻で来てくれたのだ。


もう神様ありがとう!と言わざるを得ない十分さだ。

しかもプレゼント付きときている。


いや、別にプレゼントは然程重要ではないのだけれど
やはり、愛しい人から貰える嬉しさとして。


消毒液を手に、言われたとおり
適当にベッドに腰掛けてた彼女の前に座る。


「そういや、プレゼント何?」

「開ければ良いじゃん。」

「んー、手当てが先。」


傷が残ったら俺が嫌だし。


そう言って、頬の傷を指でなぞる。

イテテ・・・と顔を顰める彼女に、苦笑して、
ガーゼを消毒液に浸した。



「ねえ、ラビ。プレゼントの中身、知りたい?」

「ん〜、そうさなぁ。」



開けた時の驚きも、楽しみだけれど
彼女が自分の為に何を用意したのかも、気になる所で。


彼女の指先の傷を、ガーゼで丁寧に拭き取りながら
結局曖昧になった返事に、は小首を傾げた。



「目、閉じたら教えてあげる。」

「何さ?ソレ。」


クスクスと笑って、問いかけた。

使い古されたような、その手段に。

彼女は、悪戯っぽく笑いながら、
消毒の終わった指先で、額を弾いた。


「良いから、黙って目ェ閉じる。」

「はいはい。」


そうして、暗くなる視界。


瞼に触れる、柔らかい唇の感触。

頬を伝い、自らの唇に触れて、首筋に落とされる。



〜、そゆ事すると襲っちまうぞー?」

「いいよ、別に。」

「・・・・・・・・マジで?」



思いがけなかった返事に、思わず目を開くと
彼女はマジな目をしてた。


彼女は困ったように笑いながら
「誕生日だから、特別。」と、そんな風に言って。


自ら首に絡めてきた腕に、答えるように口付けをする。


最初は浅く、触れるだけに。

やがて深くなる口付けの中、吐息に混ざり、問いかける。


「で、結局プレゼントは何なん?」

「あと100回、キスしてくれたら教えてあげる。」

「はは、どんどん要望が多くなるさ。」



それでも、自らプレゼントを開けて確かめないのは
こうして交わされる会話が、どこか心地良い遊戯のようだから。


今日じゃなくても良いか、なんて


そんな風に思っていたはずの温もりが、腕の中にある。


その事実に、頭の芯が甘く痺れる。



「ねえ、ラビ」


「ん?」


「誕生日おめでとう!」



そして、この笑顔。



彼女が笑ってくれるのは、自分にとって何よりも嬉しい。


そして、それが自分の為だったりしたら、


もっと、もっと―――・・・・・




「あー・・・・もう、」


「ん?」


「ほんっとに、コイツは、」



本当に、いちいち愛おしいったら。

そんな気持ちを伝えるように、唇を絡める。

気持ち良さそうに瞳を閉じる彼女に、愛しさは募るばかりで。



「・・・・・100回でも、200回でもしてやるさ」


プレゼントの中身なんて、本当はどうでも良くて


愛おしいから。


ただ、それだけの為に。



「言った事、後悔すんなよ、



そう言って、既に数える事も忘れている口付けを、彼女に落とした。