子供の恋と呼ばれても

貴方への感情は抑えが利かないまま

その手に触れたいとさえ願う

それでもそれに恐れを感じて・・・



ひと 情では れないほど



人工的な明かりが、建物の中を薄暗く照らす
地下空間に出来たこの黒の教団アジア支部は
人工灯がただぼんやりと足元を照らすばかりで
日の光を一身に浴びる事はない。

地上ではもうすぐ、春が訪れる頃だろう

目を閉じれば、遥か昔に見た故郷の、
淡く揺れるピンクの花びらが、時に鮮明に、時に色褪せて見えた。


「コラ!何をしている!!」

「あだっ!?」

目を伏せて溜息なんかついていると、後ろから何かで頭を叩かれた。
結構痛かった不意打ちのそれに、
叩かれた所を押さえて振り返る。

見慣れた顔が、不機嫌そうに立っていた。


「ゲッ・・・バク支部長・・・」

「人の顔を見て”ゲッ”とはなんだ失敬な!」

「ぅゎっ・・・バク支部長・・・・」

「言い直しても尚悪い!!」

「あーもー一々煩いですねー。
 耳元で騒がないでくれません?」

仕事の邪魔ですよ?

ニッコリ

バク支部長は言葉を詰まらせる。

「〜〜〜お前、他のヤツと比べてオレ様の扱いだけ酷くないか!!?」

「えーそうですかー?」

適当にあしらう。

扱いが酷い・・・
それは否定できない所かもしれない。

だって、面白いじゃないか。
この人、からかうの。

それに、一応理由も分かっているつもりではいる。

意地悪したくなる、理由・・・・

今私は、子供の恋をしているから。

好きな人ほどいじめたくなるって言うか、からかいたくなるというか・・・

とりあえず、もどかしくさえ感じる今の状況。

鈍いんだよ、気付けバカ。

・・・・そんな感じ。


「別に、私の態度が冷たかろうが何だろうが
 バク支部長には関係ないと思いますけど」

どうせ私の態度など、貴方は気にも留めないのでしょう?

「・・・可愛くないな」

「ハイハイ。どうせ私はリナリーさんみたいに
 可愛げも若さもありませんよー。」

胸にまた、子供じみた負の感情。

支部長よりも年下とは言え、そろそろ自分も良い年なのに・・・
恋愛年齢、5歳児並と見た。

「・・・何を考えていたんだ?」

「ぇ?」

「遠い目をして、幾度も溜息をついて・・
 疲れたか?」

くだらない自己分析していれば、急に真面目な問いかけ。

疲れたとか、眠いとか。
言ってらんないことくらい、貴方も知っているはずでしょう?

「別に・・・・・・・ただ・・・」

「ただ?」

「ただ、故郷の春を思い出していただけです」

言うと、ほぅ。と興味深そうに息を吐く支部長。

の故郷は日本だったか?」

「えぇ。」

「・・・・・美しいか?」

美しい・・・・

そう、とても美しい。

寒々しかった木々が、柔らかい桃色に包まれて、
優しいその色にも濃かったり薄かったり・・・桃色だけの
美しい絨毯が出来上がって。
土を割った新しい命の塊は、華やかな風に重たげに揺れる。
鮮やかな、命の重みが誇らしげに・・・

可能性に溢れて、優しくて、淡くて

美しい―・・・・

「えぇ・・・とても・・・」

「・・・そうか」

懐かしい景色は、何処までも優しい気持ちにしてくれる。
心のままの声が出て、思いがけず、彼からも優しい声音が返って来た。

「いつか・・世界に平和が訪れて、僕達の仕事も落ち着いたなら
 見てみたいものだな。その・・・一緒に」

その言葉に目を見開く。
支部長は今にもまた発作を起こしそうで
ああ、ウォンさんを呼んできた方が良いかしら?なんて
頭の片隅でどうでも良い事を考える。

きちんと意味を理解する自分が、居るのに・・・

「あ、あはは・・・・やだなぁ支部長。
 誘う相手間違えてますよ?誘うのなら、リナリーさんでしょう?
 私は―・・・・」



「・・・・・」

何処か、怒気さえも含む様な声。

嗚呼、今のこの人の言葉は本気なんだろう。

「そう・・ですね・・・・・」

喉が渇いている気がした。
声は少し、紡ぎにくかった。

この言葉を、本当に返して良いのか戸惑った。

けれども、この言葉を紡ぐ私の笑顔だけが
いつもよりも満たされて、輝いた。

華やかな、春の花の様に

「それならいつか、必ず一緒に。」



子供の恋。

怖い 苦しい もどかしい

でも

嬉しくて 恋しくて 微笑ましい

一つの感情で括れないほどの恋を

貴方へ抱いている

ねぇ、いつかの未来の私達の背中は

少しだけ大人になりましたか?

平和な世界

二人並んで、その手の温もりを互いに抱いて

あの懐かしくて、美しい

あの春を見つめる

私達の、背中は―・・・


            ― fin ....






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