談話室にて。


珈琲を目の前にしながら、
ちょっとした語らい何かをする昼下がり。



空は快晴。


ここ連日の大雪のせいで、
辺りは見事に白銀の世界が出来上がっていたが
ぽっと見せた今日の暖かな気候のお陰で、
積もった雪も大半は溶けてなくなるだろう。


そんな事をぼんやりと考えながら、アレンは
先程から同じくぼんやりした様子の彼女の
本日記念すべき10回目の溜息に耳を傾ける。


『彼女』と言うのは、あくまでも呼称的な意味であって
男女関係云々かんぬんは一切関係ない。


むしろあったら困る。


と言うのは彼女はラビの『彼女』であるからで
この『彼女』は、先に言うような、男女関係が含まれる
意味合いでの呼び方であって。

だからその、ああなんだ。


「どーなんだろうねーアレン。」

「はぁ・・・・」

「はぁって何、はぁって」

「だって、僕に一体どう反応しろと・・・」


ほとほと困り果てたようなアレンの言葉に
彼女もまた「まぁそうなんだけど・・・」と頭を垂れる。


ラビが任務で一人暇していた彼女が
まるで思い付きかのように持ち出してきたのは
所謂恋愛相談と言うもので。


そもそも言う相手が違うだろう、と思わないでもないのだが
内容を思えば何とも言うべくも無い。



ラビが以前、リナリーに思いを寄せていたことは
正直な話が、周知の事実とも言えるようなもので


かなり熱を上げていたのも、本人否定しまくっているが
何と言おうか、丸分かりだ。


むしろ分かるなと言うほうが難しいと言うか。


そんな状態での彼女の告白で、ラビのOKだ。


不安になるのも分からないではない、けれど。


「正直な所、自信ないんだよね。
 あのラビの性格だから、リナリーの事本気だったんだろうし。
 リナリー可愛いし性格良いしなー。」


適う所ないよねー、と。


そう、少し困ったように笑う目の前の彼女に
ああまったく、何やってるんだあの人は、と
今此処にはいない赤毛に、内心悪態を吐く。


どこか任務地で、死なない程度の怪我でもしてきて
彼女に目一杯起こられれば良いのに、とか、
少し縁起でも無いことを、本気でもなく考えながら。


彼女に遷されたかのように、溜息を一つ。



にはの素敵なところ、ありますよ。」

「あはは、ありがと。」

「いや、慰めとかじゃなくて。」



気のない返事をされてしまって、何で自分が
彼女の事励ます位置なんだろうとか、ちょこっとだけ考えて。


ラビにフォローを入れる立ち位置な自分に
なんだかなぁ、と心の中でちょっと愚痴を零す。



「そんな性格のラビですから。の事も中途半端じゃない
 本気で好きになったんだと思いますし。」



リナリーと比べるんじゃなくて、彼女自身の良いところを
あの人はあの人なりに好きになって、そうして今に至るのだろうから。



「そうじゃなかったら
 僕がラビの事、思いっきり殴ってやりますよ。」



そう言って、当然のように左手でグーを握った自分を見て
は、ほんの少し頬を染めながら、笑った。


彼女を笑顔に出来ないのは、
完全にラビの努力不足・・・だと思う。


帰ってきたら、やっぱり先にグーでパンチを入れていてやろうか。


左だと冗談にならないから、せめて右で。


それでに目一杯怒られて、少しは反省したら良い。


あれ、思考回路にちょっとデジャヴ。


まあ良いか。


彼女は笑って、目の前ですっかり冷めていた珈琲を煽ると、
よしっと立ち上がった。



「ごめんね、こんな話聞いてもらっちゃって。」


「いえ、良いですよ別に。」



どうせ暇だったんですから。


返した笑みに、ありがとう、と彼女は返す。


それから、人差し指を唇に当てると
少し照れくさそうに「今の話、本人には内緒ね」とか。


「もちろん」とは返したし、言うつもりも無いけれど。


ラビが余りにも気付かないでいたら
自分がキレて不慮の事故、なんてのも無きにしも非ずなわけで
そこまでは責任持てないかな、とは心の中の断り。

とはいえ、彼女の秘密をむやみやたらに
告げ口したりするつもりも勿論無いから、
あとはラビの甲斐性の問題――か。


ああ、不安だ。



そんな事を考えてみるものの
を笑顔で見送って。


ラビの話をする時の、彼女の表情が頭を掠める。


ラビが彼女に惚れた理由も、彼女がラビに惚れた理由も
大きな括りにしてしまえば、同じなわけで。


要するに、彼らが彼らだからこそ、
惚れあって今に至ると言うわけで。



何だかんだ言い合ってたって
結局お互い好きなのは変わらないのだろう、
あの表情を見れば、嫌でも分かると言うものだ。



あれ、なんだ結局
ちょっとした惚気をされたのかな、自分。



そんな事を思いながら、彼女の様に煽った珈琲は
冷えて酸味が後を引きずった。





彼女恋愛事情
 (まあ要は上手くやれていれば良いわけで)
 (痴話喧嘩に巻き込まれるよりはまだマシかな、とか)
 (気苦労の耐えない取り巻きは思うわけで)

      (とりあえず、右で殴るか左で殴るか)
      (あと2・3日の内に決めておかないと。)


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