千年公の命令は絶対で

それに抗う事すらも

許されない






全てを れさせる
風が







「な・・・に・・・?」

食事の席で出されたカードに示された人物。
その人に、驚きを隠せない。

「エクソシストが、コイツを適合者と判断しましタ
 接触がある前に始末してくだサイ

体が、どうしようもなく震える

それでも、何も考えられない頭では
酷く冷静にソレを受け止める自分がいた。

そこに書かれる情報を目の当たりにしても
何も感じられない自分がいて
それが、イヤだった・・・・・・・






森の中を抜けた、見慣れた家に俺はまた訪れる。
けれども、その理由はいつもと全く違うもの。

「やっぱり来たね、ティキ」

ゆっくりと、椅子から立ち上がって微笑んだ。

俺が来ても、は驚かない。
けれど、その瞳は、俺が何をしに来たのか
確実に、理解していた

・・・」

「私は構わないよ。
 ティキの敵になる位なら」

そんな優しい笑顔、して欲しくないのに・・・

俺がの頬に手を添えると
自分の白くて細い手を重ねてきた。

「・・俺は、を殺したくない・・・」

「私は、ティキと戦いたくない」

お互いの気持ちは正反対を向いていて
それでも、同じ方向を向いているのは・・

「・・・一緒にいたい・・」

「・・・うん・・・・」

会えなくなるのは、イヤだった。

出来る事なら、一緒にいたいと・・・

たった、それだけの願いだ。

そんな事すら、許されずに・・・


「ティキ・・・それでも、私は・・・
 貴方とは、戦いたくないよ・・・。
 ティキの敵になったら、私・・」

そう、泣きそうな目をして

「だから・・・お願いだよ・・・
 まだ、敵じゃないうちに・・・」


私を・・・・


続けさせるのがイヤで、
ごまかす様に、抱きしめた。

・・・」

「ん?」

「・・・怖くないか?」

「大丈夫。
 ただ、外に出てからにしよう?」


「・・わかった」


初めてヤった時みたいに、
優しく囁いて、彼女の我侭も聞いてやる。

ただ違うのは、コレが彼女との
『初めて』じゃないだけだ。

コレが、彼女との
『終わり』になるだけだ

ただ、それだけだ・・・・・・












外には、心地良い風が吹く。
彼女の髪は、サラサラと風に乗った。

「・・ティキ・・・」

「ぅん?」

「お願い、聞いて・・・?」

「なに?」

風が、流れる。
時折強くなっては、弱々しくと
交互に繰り返しながら

家の前に立つ大きな欅の木が
葉々を擦る様にして、サワサワと音を立てる。

は、それに耳を澄ますように言う。


「ティキの手で、終わらせて。
 たとえ、苦しまずに済むとしても・・・
 『力』を使う事だけは・・しないで・・・」

「・・わかった。」

答えると、彼女は微笑んだ。
何よりも、キレイに。


サワサワ

サワサワ・・・・・


風の奏でる歌は、どこまでも、澄んでいる。


「ティキ・・・」

「ん?」


もう、抱きしめたりしない。

抱きしめたら、きっと

彼女の願いを

聞いてやれなくなる。



あぁ、今日は


風が、気持ち良い日だな・・・・




「愛してるよ」

「・・・・俺も。」


誰よりも

愛してる。

過去には出来ない。


愛してるんだ。誰よりも・・・



瞳を、閉じて

ゆっくりと



俺は、しっかりと君を見てるから。

君の分まで

この目に君を焼き付けるから

だから、君は

目を閉じて・・



「・・・愛してる・・・」


サワサワ

サワサワ・・・・



風の歌

まだ、聞こえてる?
































「すみませーん」

大きな欅の木が立っている。
その前に立つ、小さな家に
白髪の少年が呼びかける。

返事は、返らない。


「おっかしいな。
 確かに、ここのハズなんですけど」

黒い、エクソシストを表すコート。
もう一人、黒髪のエクソシストは、舌打ちをして

「どっかに出かけたんじゃねぇのか?
 一回街出てみるぞ、モヤシ。」

「モヤシじゃないです!!」

声は、賑やかに遠ざかる。

ティキは、欅の枝から見下ろした。

その左手には、
深紅の雫が滴り落ちる。

サワサワと

風が歌を奏でて


一緒に、髪も流す。

殺しが楽しくないと感じたのは

これが

初めてだった


「あぁ・・」


本当に、今日は風の気持ち良い日だ・・・


こんなに

こんなに


このちを洗い流すように

歌を奏でて


通り抜ける



「・・・風よ吹け・・・・」



風よ吹け

もっと吹け


このちを洗い流してしまえ



この二人だけの場所には


全てを忘れさせる風が吹く



ティキのいる欅の根元には

小さな十字架が立っていた・・・・・


                      ―fin...





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