輪廻転生、なんて言葉はあるけれど
そんな真偽、図れない。


だって私は、少なくとも『前』の記憶は知らないし。


結局は、今を生きるしかないのに


運命を呪ってしまう私は、なんて愚か者。



「ねえ、ラビ。」


「んー?」



名前を呼べば、当たり前の様に返ってくる声。

何となく気の無い返事だけれども、今更そんな事は気にしない。


「ラビはさぁ、前世とか来世とか、そう言うのって信じる?」


「んー・・・何さ?急に」


唐突な問いかけに、ラビは困った顔をする。

その問いに「いや、何となく・・・」と返せば、尚更の事困った顔。

何の気ない質問なのに、また難しい質問してくるな、と。


「別に、ラビがどう思ってるかで良いんだけど・・・」


そんな難しく考えないでよ、と、今度はこっちが困り顔。

ラビは少し唸った後に、そうさなぁ・・・と言う言葉で始めて、答えた。


「あっても良いんじゃないか、とは思うけどな。」


「んじゃ、生まれ変わったら何が良い?」


とおんなじのが良い。」


ラビは、さらっと笑顔で答えた。

あんまりさらっと言われたから、危うく
「ふーん、そっかぁ」とか、返すところだった。


いや、むしろこんな風に赤くなってラビに面白がられるくらいなら
さらっと流せちゃった方が良かったかもしれない。



ラビが、その赤くなった顔に手を伸ばして、笑ってる。


くそぅ。



「んでさ、もし来世でも、おんなじモンだったら・・・
 今度こそ、の隣に当たり前にいられるようになりたい。」


そう言ったラビは、ほんの少し寂しそうで。

言われた自分も、胸がぐっと重たくなったような気がした。


「ねえ、ラビ。」


「ん?」


「後悔――してる?ブックマンの後継者になった事。」


ラビは時々、持ち前の気の良さからなのか
皆を騙す事に、苦しそうな顔をしてる。

今だって、そうだ。


ブックマンであろうとして、それでもなりきれなくて
『ラビ』が、苦しんでいる。


そして、今『ラビ』を苦しめているのは、自分。



ラビはの顔を見ながら、ほんの少し申し訳無さそうな顔をしたけれども
ゆっくりと首を振って、ちょっと辛そうに笑った。


「後悔は・・・・全くっつったら、ちょっと御幣もあるけどさ」


「うん。」


「でも・・・しょうがないよな。好きなんだから。」


「・・・・うん。」


頬に触れていたラビの手は、
そっと移動して、髪を撫でる仕草に変わる。


の事も、好きなんだから・・・」


「そんな、申し訳無さそうな顔、しないでよ。」


しょうがないよな・・・と、苦しそうな、泣きそうな顔に変わるラビに
頭に乗ったその手を取って、苦笑した。


「責めたいわけじゃないんだよ」って、そう言って。


「良いんだよ、そんな苦しそうな顔しなくて。
 どれだけブックマンになりたいって思ってるのか、
 私、ほんの少しはわかってるつもり。」



ラビを好きになった時から。

否、そうとわかっていて、好きになった。


「ラビが本当は『ラビ』じゃなくても、その内、また違う人になっちゃっても、
 私は怒らないし、後悔もしない。
 哀しいけど、苦しいけど、私はラビを好きになったこと、誇りに思う。」


でもね、と続けるを、不思議そうに見るラビ。

は、笑う。


「ラビは、前世の記憶とか、ある人?」


「は?」


「前世の記憶。」


なんで唐突に話がそっちに飛ぶんだ・・・

思いながらも「いや・・・」と答えるラビに、
「私も、」とが答えて。


「前世とか来世とか、あっても良いとは思うけど、
 前世の記憶なんて私には無いし、知らないよ。
 だからさ・・・」


は、そっとラビの手を離して、肩に手を掛ける。

不思議そうなラビの頬に、一つ小さなキスを落として。

ラビは、目を見開いて驚いたような顔をする。


「さっき笑ったお返し」と、小さく言って笑う

ラビは僅かに赤くなった気のする頬に手を当てながら、
少し呆然とした様子で見つめて。


「ラビを好きなのは『私』って事。
 きっと来世になっても記憶なんて残ってないし
 私、そんなに気が長くないから・・・・」


「嫌いになる?」


「ならないかも。でも、わかんない。
 嫌いにはならないと思うけど、別の人を好きになるかもしれない。
 来世の私次第だよね。」


『私』の記憶が無いんじゃ、どうにも出来ないけど。

ラビは、ほんの少し寂しそうな顔をしていた。

ほら、そんな顔しない!と、額を弾いて怒られる。



「だからね、今言えない分を来世になんて、回さないで。」


「・・・・。」


「ラビが好きな私も、ラビを好きな私も、『私』だけ。」


「・・・・なあ、」


「うん?」


は、もし生まれ変わるなら、何になりたいんさ?」


「私?」


少しその切り替えしが意外で、驚いた顔をする。

それでも、はほんの少し考えて、考えて、考えて―・・・・


「・・・・ダメだ、ちょっと情けない・・・」


「何?」


「・・・・ラビと同じもの。」


「・・・・ちょっと、情けないさな。」


「でしょ?」



アレだけ言っておいて、こんな会話をしておいて。

結局答えは、おんなじ所に戻ってきてしまう。


答えに、ラビと額をつき合わせて、2人。

困ったように、笑いあった。


「好きだよって、今の内に何回言ったら、足りるんだろう。」


「足りないさ、何回言っても。きっと、足りない。」


一生掛かっても、足りやしない。


きっとすぐにまた、欲しくなる。


甘美なその言葉を、君の口から聞きたくなる。

そう思うと、
ほんの少し区切られただけの自分たちの時間は、あまりに短すぎて―・・・



輪廻転生、なんて言葉はあるけれど
そんな真偽、図れない。


だって私は、少なくとも『前』の記憶は知らないし。


結局は、今を生きるしかないのに


運命を呪ってしまう私は、なんて愚か者。


「それでも、言うんさ。」


「ん?」


「『』が、覚えててくれるように。
 来世でも、覚えてたら良いって思えるくらいに。」


「うん。」


飽きるほどに

嫌になる程

忘れたくても、忘れられないくらいに


「運命なんて、信じているわけじゃないけれど。」


儚い望みを託して、言うのだ。



「好きさ、」 「好きだよ、ラビ」



このくすぐったい気持ちを
      来世まで持ち越せたのなら幸せなのに。





記憶 など私はらない



[COPYRIGHT(c)奏華誠 music by,TRISTEZA]
special thanks[哀婉

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