歌が聞こえる

君からの

君だけの

君のための

君に向けての

愛の歌




ディーのない
ラブ
ング



例えば物語には、良く豪勢に飾られた言葉が出てくる。

「俺の思いは海より深く、山より高く―・・・」

「あーハイハイハイハイ。私もよー。」

「・・・。」


愛情を表現する。

毎回毎回、同じようにかわされる。

こんな風にあしらわれるのも、もう幾度目か―・・・

「昨日見てた本にあったんだけどサー・・・
 ダメ?」

「だーめ。」

「ちぇー。」


唇を突き出して、彼女の肩に顎を乗せれば、
ペシッと軽く指で額を弾かれた。

少し痛む其処を擦って、
途方に暮れたように窓の向こうの空を見る。


ガラス越しの空は茜に染まる


「なぁんで、ダメかなぁ・・・」


「さぁ?」

呟きにまで、返事を返してくれる。
顎を肩に乗せたままの体勢は、結構キツイ。

鼻先を、シャンプーの匂いが掠めた。


「・・・・・まるで、アマデウス。」

「ぁい?」


突拍子もない呟きに、マヌケな声が出た。

は、そんなラビをクスリと笑って、
それから、同じ窓の外を見て言った。


「モーツァルトの事よ。
 彼のオペラを、周りの人は”音が多い”と評価したの。
 でも本人は、ソレを全て必要な音だと主張した・・・・。

 ・・・今のラビみたいじゃない?」

音の・・

飾りの多い愛の言葉を囁いて、
ソレが大事なんだと主張する。

本当に大切で、伝えたい言葉は
たくさんの飾りに埋まってて、分からないのに―・・・・


「ラビ・・・」

「ん?」

「キス・・・して?」

恥らうように、囁く。

そのままの体勢で、の顎を掴んで上を向かせ
キスをした

長い でも 浅い

そんな、体温を互いに感じあうためのキス。

ゆっくりと、離れた唇

「愛してる。

自然と、その言葉を紡いだ。


「・・私も。
 大好き、ラビ」

が、そうやって微笑んでくる。

嬉しそうに笑う。

どんなに愛の言葉を囁いても、
こんな微笑、くれなかったのに・・・


「ラビ。
 余計な音は要らないよ。
 私には、その言葉だけで十分。」

飾った言葉

要らない音たち

ぜんぶ ゼンブ 全部 要らない


「・・愛してるサ。」


その 一言

メロディーのない その歌こそが

私の 私のための 私に向けての


愛の歌


ラブソング



                       ―fin...





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