戦火の煙に身を委ね

血塗れた他の手を踏みつける

道々紅い足跡を

残して進む其の先に

暗紅色の花が咲く

血濡れの白い花が咲く






輝く を、
今は待







秋の風が吹いた。
空は高い所を速めの速度で流れて、肌に触れる外気は
何処か乾いていて冷たい。

そろそろと、生活もし易い快適な天気になってきた。

数週間前までは茹だる様に暑かった温度も、日に日に
その空気を冷やして行き、気付けば、風に乗って金木犀の甘い香りが
鼻を掠めていく頃になっていた。

目の前には、数週間前まで美しい大花が咲いて揺れていた。

その花は、今では咲き乱れる秋桜の群れの下で
着々とその身を腐らせて黒くなっている。


「・・・・アレは、光だ」


目を閉じて、冷たい風を感じながら、ティキは呟く。
思い起こされる姿は、黒い服を身に纏い、華奢な体で
自分たちと戦う少女。


「あれは・・・光だ・・・]


自分の手に掛けた少年の死を悲しみ、涙を流していた少女。


あれは光だ。


あの笑顔には、太陽にも似た夏の花が良く似合う。


あれは光だ。


闇に堕ちた此の世界で輝く、夏の花だ。



「なぁ、?」


目を開いて、少女の残像が消える。
太陽の光を目一杯に浴びて、目を細めた。


彼女が光だというのなら、自分は恐らく闇だろう。


闇にいる自分たちにとって、日の光はあまりに眩しい。

けれども闇の自分は、光に恋をした。




「・・・・どういうつもり、ティキ・ミック卿。」



目の前に立つ少女は、緊張した面持ちで、
構えたように立っている。



「そう構えんなよ。
 今はまだ、何もしないさ」


「・・・・信じられると思う?」


「信じてもらうしかないね」



言って、に近づいた。
は後ずさる。


光と闇は交わらない。

それは、禁忌にも似る。


「・・・・・何のつもり」

「怯えんなよ」

「私一人を呼び出した、その意図は?」

「話しがしたかっただけさ」


が睨む。
ゾクリと、何かが体を走った。
其れは何処か狂った感情。


下手をすると抜け出せなくなる、クセになりそうな快楽。


「やっぱ、いいな。お前」


けれども、光は遠くで見るから美しい。
近づいては、やがて闇は飲まれるだけで、
だからこそ光は、自分を消す唯一の物として甘美で良い。



「今は、何もしないよ。
 少し話さねえ?オレは、此処から一歩も動かない」


「お断りよ」


「信じられない・・・・か。
 でも、今わざわざ手を下す必要も無いんでね」


「どういう・・・」



「アンタは、俺の元に堕ちてくるよ」


言うと、眉を顰める

これは予感。



君は闇である自分の下に落ちる。


”光”である、君が――・・・・



其れは、秋に腐り黒ずむ夏の太陽にも似た花の様に。


これは予感。そして、予言。



「殺されるかもしれない危険を侵してまで
 アンタが此処に来たのが、その証拠さ」


「何を馬鹿な事を」



鼻で笑うように、は言った。
気にした風もなく、ティキは立ち上がる。


金木犀の香りの秋風が流れた。

秋桜が揺れる。

そろそろと、月夜の美しい季節だろうか。



「次の満月の夜に、オレはまた此処に来る。
 アンタが来るかどうかは、アンタ次第だよ、?」


「・・・・・・。」



そう、挑発するような目で見て、踵を返した。


無防備な背に、攻撃は襲ってこなかった。

恐らく、彼女は明日も此処に来る。


秋が濃くなるたびにジワジワと、彼女は腐り黒くなってゆくだろう。


そして、最期には闇の黒に染まる。


そうしてようやく、自分は彼女に触れられる。



「遠くは無いさ。」



近いうちに彼女は闇になる。

そして光が消えて、自分を脅かすものは無くなり
彼女もまた、自分の手の内で土に還って行く。




「それまでは、」




月輝く夜を、今は待とう。



                             ―fin...





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