朝起きたら


すぐ傍らに、彼女がいて


珈琲の穏やかな薫りが、部屋を満たしていた。



「おはよう、ラビ」



ニッコリと、彼女の微笑み。


正直、理解が追いつかない。


昨日の夜、眠ったときは確かに一人だった。


部屋に鍵も掛けてあったはずだし


だからまさか、同じベッドの上に
まるで子供の面倒でも見ているかの様に腰掛ける彼女が
この部屋に入ってくるなんて事――ああでも彼女なら無いとは言い切れない。



「・・・・・なに、夜這いさ?

「ラビー起きてる?今朝よ。」



強いて言うなら朝這い?



――なんだよ、それ



既に開かれていたカーテンからは
朝の真っ直ぐな日差しが差し込んでいる。


冬の朝は寒くて、けれどもその清らかな空気が独特で好ましい。


昨日降った雪は積もったらしく、
乱反射する光で、部屋がいつもより明るく感じる。



今日一日は、天気も乱れる事がなさそうだ。



何となく、穏やかに過ぎそうな1日を想像して――



すぐ傍に腰掛ける彼女の存在を思い出す。



ベッドから立ち上がった彼女は
淹れたばかりらしい珈琲をテーブルから持ってきて


自分は上半身を起こし、それを受け取った。



「大丈夫、まだ何もしてないから」



珈琲を口に含んだ絶妙なタイミングで言われて
思い切り噎せ返る。


あらー大丈夫?とか
ニヤついた口元で言ってくる辺りわざとだ、確実に。



「それで?」

「ん?」

「結局何の用で来たんさ」

「んー・・・特に用もないんだけどね」



ただちょっと顔見たかっただけ、かな


照れ隠しに、視線を外して言う。


そんな風に言われて、
少しばかり可愛いと思ってしまう自分が憎い。



「良いでしょ、たまには?」



言われた言葉に首を傾ぐ。


はにこりと笑っていた。



「寝起きに誰かがいて、珈琲淹れてもらえてってのも。」


「・・・・・ま、悪くはないさな」



言いながら、いい加減ベッドから立ち上がる。


一口含んだ珈琲に、
テーブルにカップを置きながら、彼女の頬のラインを指でなぞった。


擽ったそうに目を閉じる彼女は
柔らかい肌に、なんだか猫を髣髴とさせて


落としたキス

唇を舐める。



「どうせ、1日予定ないっしょ、?」


「・・・・その言葉、そっくり返してあげるけど?」



少しムっとしたように言われて、口元に笑みが浮かぶ。



「んじゃ、お互い都合良いって事で。」



たまにはどっか、出掛けっか。


言った言葉に、は微笑んだ。



「ラビのそーゆうトコ、結構好きだよ」

「そりゃどーも。
 俺はのそーゆうトコが大好きだけどね」

「・・・・・私の方がもっと好きだと思うけどな」



不満そうに言うを、
やっぱり自分は可愛いと思ってしまうわけで



―― ああ、どうしようか



本当に彼女を好きだと思う。



むしろ朝這いしてもらえた方が嬉しかったかも、なんて


これから出掛けるのに、
顔に青あざ作るのは勘弁だから、言わないけれど。



朝起きたら


すぐ傍らに、彼女がいて


珈琲の穏やかな薫りが、部屋を満たしていた。






無意味だけれど、きっと
(これだけで今日一日がこんなに幸せ)
(今日はこれから何をしようか)
(そんな事に、胸が高鳴る。)


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