普通で居られたら

僕はどうなっていたんだろう・・・・?




う事が、 そんなに
がままですか




薄暗い部屋の中で、唯一燈した蝋燭に、アレンは手をかざした。
浮かび上がるのは

赤く 紅く

甲に深く埋まる十字架は、痛々しく
其処を中心として、放射線状に、血管にもしわにも似る筋が走る

―― 神のイノセンス・・・・

もし、自分が普通の手を持って生まれたなら・・・・

マナと出会う事は無かったかも知れないけれど、
この身に呪いも受けず・・・・

何かが変わっただろうか?

この身が『普通』であったなら・・・・・




―― コンコン


ふと、耳に届くノック音。
扉の方を仰いで、ほんの少しの刻を待てば、静かに扉が開いて

僅かに部屋に差し込んだ光に、目を細めた。

「ぅゎっ暗っ!
 何やってんの?アレン」

光の元から現れたのは、1人の少女で
アレンは、その少女を捕らえて力なく笑った。

「なんでも無いよ。

「なんでも無いって・・・・・」

少女・・・は、呆れた溜息をついて、
入り口にある電気のスイッチを入れた。

少し眩しくて、眉を顰めるがそれも一時。
僅かな光に少しだけ慣れていた瞳は、すぐに正常に戻った。


「目、悪くなるよ?」

「うん・・・でも・・・」

「でも?」

隣に腰をかけたに、アレンはふと、戸惑いの色を見せて
それから、言った。

「でも、暗いほうが良いんだ」

「?」

「暗ければ・・・・この左手も、白い髪も、マナの呪いも・・
 見えないから・・・・」

少し俯いて、言ったアレンに眉根を寄せたのは
アレンは、そんなの様子をわかっていながら、続けた。

「ねぇ
 もし僕が普通の子供に生まれていたら・・・・
 僕は、此処に居たのかな?」

「・・・・問いかけを問いかけで返すようで悪いけど・・・」

その言葉は、何処と無く冷ややかで・・・・

いつものだったら、
きっと何か優しい言葉をくれるんじゃないかと・・

甘い言葉を期待したアレンにとっては、
その反応は予想外で

思わずの方を見やった。

射抜いた瞳は、あまりにも、真っ直ぐで――・・・・


「アレンの言う『普通』って、何?」

「何・・・って・・・・」

一瞬、言葉に詰まる。
『何?』と聞かれても、その場でサッと答えられるような問いでもない。

「・・・・皆と変わりがなくて・・・・
 友達と笑いあったり、学校に行ってみたり・・
 そんな、平穏な生活を送る事・・・・?」

「つまり、アレンは
 『周りと合わせる事』が『普通』なワケね?」

「・・・そーゆう・・わけじゃ・・・」

言葉に詰まらせたアレンを見て、
は呆れとも怒りとも付かぬ声を出す

「そんなのは、『普通』じゃないよ。
 個性は人それぞれ。
 だから、生活にもそれぞれ違いが生じる。
 使い古された言葉でしかないけれど、同じ人間は居ないんだよ?
 普通の基準なんて、誰が決めるの?」

「・・・でも・・・・
 少なくとも、僕は・・・・
 生まれながらに異型の手を持って、捨てられて・・・
 呪いを受けて、こんな白い髪・・・・
 僕は・・・・普通じゃない・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

無言のに、視線をやる。
その瞳は、尚も強い瞳のままで

畏怖さえも、覚えるような・・・・

「普通でしょ?」

「ぇ・・・」

「アレンは、『普通』でしょ?」

先ほど、同じ人間が居ないといったばかりなのに・・・
この少女は何を言い出すのだろう・・・?

「アレン自身がアレンらしく居られるコト、それが『普通』なんじゃないの?
 一人1人が違うのなら、その人其々に『普通』があるんじゃない?
 アレンは・・
 少なくとも、私にとっては
 一生懸命生きてる、一人の人間で、『普通』だよ」

優しくて、厳しくて、思っても見なかった言葉。

目を見開いたアレンに、笑いかけたのは、いつもの・・・

「それに、私はアレンが今のアレンで良かったと思ってる。」

「?どうゆう・・・」

「・・・・・その左手と、白い髪と、呪いがあったから・・・
 アレンが今、此処にいるわけだし・・・・」


俯いて、最後にもう一文、付足される。
その言葉に、目を見開いて・・・

「今のアレンだから・・私は好きになれたんだし・・・・」

「・・・・・・・」

厳しい言葉に添えられた、優しくて温かな言葉

嬉しくて、抱きしめた。

「・・・僕も・・・今の僕で良かった・・・」

君の傍に、こうしていられるから・・・



『普通』である事を願った

周りと同じで居たかったと思った

でも

それは、ただの我がまま

僕は今、僕として君の隣に居られるから・・・


だから、僕は胸を張ろう

君に愛される僕になれたことに・・・・



                          ―fin...


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