『永遠に』


幼い約束


果たせなくても


アイシテル





貴方の 未来
ネリネ 彩り






任務が終わって、教団に帰ってきた。
正直な所、どうやって任務を終わらせたのかは覚えていない。


ただ、今回ペアだったラビは帰り道、ずっと俯いたままだった。

幸い、任務先は然程遠くない場所で、汽車で約数時間。
苦になる程ではなかったけれども―・・・・


何か怒らせるような事でもしたのかしら・・・・


何度話しかけてみても、触れても、何も言ってくれなかった。

そして今、ラビはコムイの部屋で任務の終了を報告している。
私がまだ部屋に入っていないのに、ラビが扉を閉めてしまったから仕方ない
私は外で待っていることにしたのだ。


今日のラビは、ちょっとおかしい。


しばらくすると、ラビが出てきた。
相変わらず、表情が暗い。


「ちょっとラビ、なんで私が入ってないのに閉めちゃう―・・・・」

「ラビ。
 彼女は、礼拝堂に」

「・・・・・わかった。」


・・・・・ちょっとちょっと・・・・


コムイまで無視するの?

『彼女』ってだれ?


・・・・なんでラビは、今にも泣きそうなの?


不穏さが、胸を騒がす。




ラビは私を見ようともせずに、
『彼女』の待つ礼拝堂に向かった。

私が居る前で、堂々と浮気かと、後ろをついていく。
ラビの背中を睨んでみても、答えは何も返ってこない。

気にも、止めてくれない―・・・・


やがて、礼拝堂の立ち並ぶ、大きな十字架の前に。
『彼女』の待つ、礼拝堂だ。

けれども、『彼女』の姿は見当たらない。


代わりに、ローズクロスの前に、黒い柩が
ポツンと置かれていた。


「・・・・誰か・・・亡くなったの?」


それで元気が無かったの?


・・・・応えてくれない。



ラビは俯いたまま柩に近づいて、その蓋を開けた。

ラビの大きな背中のせいで、中に誰が入っているのか見えない。

ラビの肩に手を置いて、精一杯の背伸びと一緒に覗き込んだら
中は嫌と言うほど良く見えた。



目を、見開いた―・・・



「わた・・・・し・・・・?」




中には私が眠っていた。
私は此処にいるというのに、黒い柩の中に。


「・・・・・


ようやくラビが口を開く。

第一声は、私の名前だった。

ねえ、ラビ


「違う・・・よ。違うっ!!
 だって、私は此処にいるよ!?
 ねえ、ラビっ!その子、私じゃない!!!」


悲鳴にも似た叫び声。
礼拝堂に冷たく反射する。

何も言わない。



ラビが、柩の中にいる私に、ソっと手を触れた。

その部分に、ほんの少しだけ、温もりを感じた。

ポツリと頬に何かが当たる。

自分で触れてみると、其処には何も無かったけれども、
柩を覗き込むと、中の私に一滴の涙が流れていた。


一瞬、私が泣いているのかと思ったけれども、違った。

泣いているのは、ラビだった。


・・・・ねえラビ・・・・その泪は今

誰の為に流しているの・・・?



「・・・アホさな、。最後で油断なんかするから・・・
 ・・・・こんな事に・・・なるんサ・・・。
 アクマなんかに殺されて、本当に・・・バカさ・・・・」


アクマに・・・・殺され・・・・・・?

脳内にフラッシュバックする記憶を手繰れば
最後の任務の・・・・・

私の覚えている最後の瞬間。


ああ、そうか・・・・




「・・・・そっか・・・。本当にバカだ、私・・・」


私、死んだんだ。



「・・・・ラビ。」


「ごめんな。」


「何で謝るの?」


「守れなくて、ごめん」


「気にしなくていいのに」


「一緒にいれなくて・・・・ごめん・・・・」




なんで?私は此処にいるのに―・・・・


ラビの頬に触れてみても、その温もりを感じられない。

私の頬に、ラビの涙が1つ2つと伝って落ちる。


眠るように死んでいる、人形の様な私に触れてみた。

今まで触ってきた人間の死体と、変わらない感触だった。



嗚呼、私は心の何処かで
自分ばかりは、このような人形にも似た姿にはならないと
不確かなものを信じてきていた。


私は結局、人間だった



・・・・」


「なぁに?」


・・・・・っ」


”ごめんね”は、こっちの台詞だよ?

私の為に泪を流している貴方が、目の前にいるのに

私はもう、抱きしめてあげる事も出来ない。


「・・・・ラビ・・・・」


・・・・」




どうか


どうか願うならば



「死んだ私を想う事無く
 幸せに・・・・・私の分も、生きて――・・・・」












時が過ぎた。
死んだ私の体は灰になり、ラビの温もりも
もう感じることが出来なくなった。


ラビは、今でもたまに、泣いている。

でも確実に、その背中は遠退いていた。


ねえ、もう振り向いて、あの輝かしいほどの笑顔で
手招きは、してくれないの?





未練がましい私も、いなくは無いけれど・・・・




「ラビ、と付き合い始めたんだそうですね」


「アレン、情報早っ!?」


ラビは今を、生きている。



「なあ、
 オレ今、すっげぇ幸せサ・・・」



――よかった



精一杯の微笑を、彼に向けた。



「あっ」


「なんです?」


「今、が笑った気がした。」



・・・・気付いてくれて、ありがとう。


貴方に出会った時が、一緒にいた時が、喧嘩をした時が、笑いあった時が

数え切れないほどの時が、私にとって、何よりの幸福でした。



ねえ、どうか
貴方の未来が幸せでありますように―・・・・




空から射す暖かくて優しい光に包まれて


私は溶ける様に


消えて逝った。




                      ― fin....




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