暖かな 赤

彼女の真っ白な体から

とめどなく溢れる ソレは

とても

綺麗だなって

思ったんだ




もう、お みなさい






多分、もうあたしはダメだな。

直感的に、そう悟る。

血は、止まることなく溢れてるし、
意識は朦朧としてる。

ボーっとしてて、あんまりモノを考えられないのに、
変な風に頭は冴えてて、自分の死が、
ジワジワと迫ってきてる事は、わかる。

「はぁ・・・ま、人間なんて、愚かなもんだね。」

喋ると、口の中に鉄臭さが広がる。
こんな状態でも、とりあえず味覚はあるらしい。

いっその事、痛みと一緒に麻痺してしまえば、
楽だと思うのだけど。

「しかし・・・私の人生がこんな終わり方とは・・・。
 つくづく運がなかったのねぇ・・・」

事は、昨日の夜。
学校の帰り道、帰りが少し遅くなってしまって、
辺りが闇に包まれていて・・・

少しでも早く家に帰りたいからって、
近道として、裏路地通ったのが悪かったんだな。

ガラの悪いお兄ちゃん達に捕まって、
そのまま犯されて、暴れまくってたら、終いにはこの様だ。

「あぁ〜、まったく痛いなぁ・・・
 死ぬんだったら、さっさと死ねよ。あたし。」

自分はこんなに血の気が多かったかな・・
そんな考えが頭を過ぎる。

長々とこんな風に苦しい思いをするくらいなら、
早く楽になりたかった。

しかし、こんだけろれつも回ってるし、
まだ死ぬには時間が掛かりそうだ。

真っ赤に染まる服の上から、
傷口を押さえると、は溜め息をついた。


「ねぇ、アンタ、死ぬの?」


ふと、掛けられた声。

こんな所に人が通るなんて、珍しい。
しかも、年の頃は多分、自分と同じくらいだ。


「多分ね」


が答えると、その子は、ふ〜ん、と答える。

声からして、女の子らしい。

少女はの傍まで歩み寄ってきた。

予想通り、自分と同じくらいの年の女の子。
雨でもないのに、傘を持っている。

「恐い?」

「あんまり。」

「死にたくない?」

「なんでもいい。それよりも
 早く楽になりたい。」

本心だった。
だって、平気そうにして入るけど、
本当は暴れまわりたいくらいに痛いし。

痛いって言うのとは、少し違うかもしれない。
熱湯を注がれている様な感じだ。
傷口の周りが、とにかく熱くって、
それでも、やっぱりじくじくと痛む。

・・・やっぱり、痛いらしい・・・


「それだけ喋れるんなら、
 病院まで歩いていけばいいのに」

「・・・めんどくさいじゃん」

「自分の生死かかってるのに、
 めんどくさいとか言ってる場合なわけぇ?」

「だってさぁ、このまま生きてても、
 理由があるものなのかなって、考えたらサ、
 なんか、どうでも良くない?
 あたしが生きて様が死んで様が、
 きっと何も変わんないモン。」

「ふ〜ん。まぁ、確かに
 こんな世界、生きててもあんまり価値はないよねぇ。」

「でしょ?だから、生きろって言われるなら、
 別に生きてもいいかなって思うんだけど・・・
 そうじゃないなら、このまま楽になるってのも、
 悪くないかなぁ・・・なんて。」



は笑う。
その形のいい唇からは、
一筋の紅い雫が流れ落ちる。

激しくむせ込んで、また一筋。


「人間の中にも、こんな奴居るんだぁ。」

「え?」

「なんでもない。
 ねぇ、アンタ、名前は?
 僕は、ロードって言うんだぁ。」

「ロード・・・か・・・
 あたしは・・・。」

・・・ね。
 綺麗な名前ぇ。」

「・・・ありがと。」

赤に彩られる唇は、笑みの形を作って、
ロードと名乗ったその少女は、
に近づく死を、ただ黙って見守る。

「ねぇ、綺麗だねぇ。」

「・・・?」

の血。
 凄く綺麗だよぉ。」


「・・・そっか・・・
 なんか、無駄じゃない気がして 
 嬉しいね。って、
 こんなことに喜んでも、仕方ないか。」

「そうかもねぇ・・・。
 ねぇ、
 が死んだ後にさぁ、
 僕のお人形にしてあげようかぁ?」

「・・にん・・ぎょう・・?」

「そぉ。人形。
 なら、きっと僕の持ってる人形
 の中でも、一番綺麗な人形になれるよぉ。」

「・・・そっ・・かぁ・・・ 
 それも・・いいかもねぇ・・・」

「うん。毎日、お洋服取り替えてあげるねぇ。」

「うん」

「髪型も、毎日変えてあげる。」

「・・・・うん。」

「お風呂にも、入れてあげるから。」

「・・・うん・・・・」

・・・」

「・・・・」


「・・・・おやすみなさい。」


・・・・・・・



冷たくなった彼女の体。

あぁ・・やっぱり、綺麗だなって。

毎日、綺麗にしてあげるよ。

僕だけの、お人形。


・・・・もう少し、早く会えたら、良かったのにねぇ。





永遠の眠りへ・・・・・



おやすみなさい




                           ―fin...






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