ひらり ひらりと 桜花舞い

一つ残るは 幼き花軸

ふわり雨降る 儚き花弁

ひらり ひらりと 舞い散れば

2人合わせた 手のひらも

ひらり ひらりと 舞って行く




して プラナス
舞い
ちて







「・・・・なん・・・なんだよ・・・これ・・・。」

ここは地獄だ。

瓦礫に、無数の人間が潰されている。
何処かで、かろうじて命を取り留めた人間の
低く呻く声がした。


いっそ、一思いに死んだなら
苦しむことも無かったのに―・・・・


見たところ、こんな風に走り回っているのは俺だけだった。

足元に転がる無数の肉塊は
ゴム人形の様に折り重なり、傷付く手足は
無いか、もしくは、奇妙な方向に折れ曲がっていた。

AKUMAの襲撃―・・・・

さっきまでは、この廃墟は普通の街だった。

さっきまでは、肉塊は普通の人だった。

まだこの手には、愛おしい人の温もりがある


『ラビ!!』



合わせた小指の感触

心の温まる笑顔

自分の名を呼ぶ声

全部、残ってる




『ラビ!また、この桜を見に来ようね!約束!!』



嗚呼、あれは確か、去年の春だった。
寒々しかった木々には、重たく、桃色の花が揺れていた。
風は、何処か甘やかに頬を撫でる。

まだ、活気溢れていたこの街の桜並木が
よほど気に入ったらしくて、帰り道で、はずっと言っていた。

”また、ここに来よう”と。




「その結果が・・・コレかよ・・・」

今更、何を思い出す。

走り疲れて、瓦礫の上に立ち止まった。
コンクリートの崩れる音。

荒い息遣い。

春の風で流れるのは、死臭

ふと落とした視線の先に、
何者かの腕が転がっていて、柄にもなく驚いて後ずさった。

女性の腕だった。

何処か、あの愛おしい人を彷彿とさせる―・・・・


「・・・・クッソ・・・・」


居た堪れなくなって、叫んだ。
彼女の名前を。

何処までも届くように、声が枯れるまで


――何故、自分はあの時、彼女の手を離した



「ラ・・・・ビ・・・・?」



何処からか、声

誰よりも愛おしい、間違えるわけも無い・・・・

希望が灯る

ラビは走った

居場所を特定したくて、もう一度
彼女の名前を力の限り呼んだ。

また、名前を呼ぶ声

!!」

走って、その姿を見つけて、立ち止まる

外傷は、今まで見てきた肉塊に比べればマシ。
腕も、ちゃんと両方付いていた。

不謹慎だが、安堵の息をつく。

けれども、誰かの愛おしい人だった女性の腕は、
片方か両方か、
確かに今、存在していないのだ




っ!!」

「ラ・・び・・・よかっ・・・見つけ・・・て・・・・くれ・・・」

力ない声。
出血の量は、酷かった。

でも、急げば、まだ―・・・

「喋んなバカ!こんまま、医者に連れてくからな」

奇妙な方向に曲がる左手を固定して
の体を背負う。

は、何も感じていないように、
痛みを訴えることも、顔を歪める事も無かった。


ラビは、また走る。
足元で、助けを求めるように手を伸ばす肉塊に
目をくれている暇などなかった。

背に伝わる鼓動は

ゆっくりと、確実に、小さくなっていく


「・・・・ね・・・ラビ・・・」

「っんだよ!黙ってろって!!」

「ごめ・・・ね・・・約束・・・・守れな・・・」


途切れる声で言う。
転びそうにもつれる足を、必死に交互に動かした


「何言ってるんサ!
 また来年来ればいいだけだろ!?」

「そ・・・ね・・・」

背中で、微笑む気配がする

この状況で笑う、彼女の気が知れなくて
当の本人がそんななのに、自分の方は、視界が滲む


「ね・・・・ラ・・ビ・・・?」

「っもう喋んなって―・・・・」

「愛してる」


肩から、何か冷たいものが滑り落ちた。

ソレが、彼女の右手であったことに気付くまで
数秒を要した。

「・・・・・・?」

耳元で、擦れた声の紡いだ、微かな言葉が残ってる

さっきまで、背中に感じた温もりも、心音も、微笑みも―・・・


「・・・・・・・・」

今はもう、何処か遠い・・・・


「・・・俺も・・・愛してる・・・」


ねえ、君に伝えたい言葉は
まだこの世界に、たくさん残ってるんだ


けれども、せめて・・・


せめてこの言葉だけは






君 ニ 届 イ テ イ マ ス カ ― ・ ・ ・ ・ ?






ひらり、足元に一片の桜が散った。

桜並木のその名残

去年は此処で、君は笑った

廃墟を彩る桜が、死臭の風に吹かれる

花軸だけを残して、ひらり ひらりと


その、鮮やかな命を、散らす

残されたものの気持ちなんて、
お前には、分からないだろう


「・・・ホラ、。・・・桜だ。」


君が見ようと言った桜だ

去年の今頃、君と、自分は
鮮やかなこの道を、手を繋いで歩いた。


・・・これで約束は・・・チャラだかんな・・」


だから、どうか


守れなかった約束を思うこと無く

安らかに、眠れ







ひらり ひらりと 桜花舞い


一つ残るは 幼き花軸


ふわり雨降る 儚き花弁


ひらり ひらりと


舞い   散れば



「おやすみ・・・・・・」



2人合わせた 手のひらも


ひらり ひらりと 舞って

逝 ク ― ・ ・ ・ ・ ・ ・




         ― fin...





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