欲しいものはいつだって1つで

口に出来る勇気は 1つじゃ足りないんだ







Irid e scence
D
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いつもの様に、朝の食堂。
人が溢れていて、毎度の事ながら賑わっている。
天気は生憎だが、天井に雨が打ち付ける音はリズミカルで面白い。

普段なら憂鬱に思うような人の多さに天気だというのに、
今日と言う日は、全ての物がすばらしく、
自分を祝ってくれているような気がする。

ジェリーの作ってくれた特製ケーキを前に
お気に入りの紅茶を含んで、笑みは自然と浮かんで来た。


「どうしたんサ?
 嬉しそうな顔して」


フと声を掛けられて、フォークを刺し掛けた手を止めた。
顔を上げれば、柔らかな赤毛。

電気に照らされて、綺麗に透き通っている。

人懐っこい笑顔も、相変わらずだ。


「ラビッ!久しぶり」

最近、任務続きで会っていなかった友と、久しぶりの再会。
自然と浮かぶ笑みは、相手も変わらないようだった。


「ほんと、久しぶりサ。
 なんか暫く会ってなかった気がすんなぁ。
 ・・・・で、どうしたんサ?ホールケーキ前にしてニコニコして」


ラビが、興味津々な感じで相向かいの席に腰掛ける。
友の喜びは自分の幸せだとでも言いたそうな位、
彼も何処となく嬉しそうな笑みを浮かべて身を乗り出す。


その表情を前にして、は、実はさ・・・と
照れたようにフォークを置いて頬を掻いた


「今日は、ほら。誕生日・・・だったりするんだよね」


「・・・・・あぁっ!もうそんな時期だったんか!」


言ったに、ラビは一瞬考えるように呆けて、
自分自身忘れていた事に驚いたように手を叩いた。


「あー、そっかそっか。
 んで、今年でいくつ?」


「花の盛りの17歳!どーよ、若いでしょ?」


「17ねぇ・・・小さすぎて見えないサ」


おどけた様に言って見せたら、からかう様に言われてしまった。
大きなお世話だッ!と身を乗り出して、その頬を引っ張ってやる。

そんなに強くした覚えも無いけれど、
ラビは、痛みにか涙を溜めてギブした。

頬は微かに赤くなってたけれども
、乱暴サ〜とか言う余裕があるのだから、
実際そんなに痛くもなかったのだろう。


フンっと鼻を鳴らして、ソッポを向いて
まだ丸を保ったままの可愛らしいホールケーキに
フォークを刺そうとする。


「あ、あ、ちょ、タンマ!」


それを、ラビが制して、
は何事かとラビを見やる。


ラビは、苦笑にも似た笑みを向けた。


「お前、あれやった?
 蝋燭刺して、フーッて」


「へ?・・・いや、そんなの
 一人でやってたら私、ただの痛い子じゃん」


言われて首を横に振ったら、
「それはダメさ!」と、ラビは突然立ち上がった。
いきなりの事で、椅子はガタッ!!と音を立て、は少しビビる。


「少しそれおあずけサ、
 俺、ジェリーから蝋燭貰ってきてやっから
 ちょっとそこで待ってろ!!」


「えぇっ!!?
 い、いいよ、そんなん別に・・・」


「だーめ。あと5分はおあずけな」


席を離れようとしたラビに、は遠慮するが
ラビは、その大きい手でポンっと頭を撫でて待ってろ、と
ジェリーの方へ向かって走って行ってしまった。

途中、ファインダーのおっさんにぶつかりそうになって
怒鳴られているラビ。

その背中を、ほんの少しだけ頬を朱に染めながら
困ったような瞳で見つめる。



「あれ?どうしたんですか、?」



ジーっとその背を見送っていると、突然声を掛けられて
必要以上に驚く。


「ア、アレン。おはよう」


顔を上げれば、白髪の少年の柔らかい笑みが立っていて、
あはは・・・っと、誤魔化すように笑って挨拶した。


「わぁっ、おいしそうなケーキですね!
 どうしたんですか?ソレ」


「あ、うん。実は今日、私誕生日でさ」


「へぇ、そうだったんですか・・・
 あ、それじゃあ、誕生日おめで―「あ、あっれ、アレン!」



祝いの言葉を述べようとしたら、丁度良く遮るようにラビの声。
口調から、どこか慌てて入って来た感じがするのだが気のせいだろうか・・・


「あ、ラビ。ジェリーさんくれた?」


「ん?お、おう。
 8本でいいんだよな?」


そう言ってからかうように笑ったラビ。
ムッとした顔で睨んでやると、冗談だって。と笑う。


「ちゃんと、おっきい蝋燭が一本に
 小さい蝋燭が7本サ、怒んなって」


そう言って、同じ長さに見えた一本の蝋燭を見せてやる。
確かに、他の蝋燭よりも長くて、"10"を現すソレが1本に
"1"を現す蝋燭が7本だ。


は、まったく・・と溜息をつく。



「ラビ。今の、わざとですか?」

「へっ?わざとって、何の事サ?」


アレンの言葉に、ラビはすっ呆けたように答える。
飄々とした様子だが、絶対に狙ったなと、確信するアレン。


「それよりも、アレンも一緒に祝わねぇ?
 蝋燭フーッて」


ケーキに蝋燭を刺しながら言うラビ。
アレンは嫌そうに首を横に振った。


「遠慮しますよ」


「えっ、なんで?
 アレンが食べ物遠慮するなんて、珍しい」


が言う。
アレンは、困ったような笑みを向けて言った。


「ケーキは、すごく魅力的ですけどね。
 場の空気も読めないお邪魔虫には、なりたくないんですよ」


「お邪魔虫って・・・・」


「まあ、がどうしてもって言うなら、
 あとで個人的にお祝いしますけど―・・・・」


「アレンッ!!」


「うわ、どうしたの?ラビ」



アレンの言葉を遮るようにラビが声を上げて、が驚く。
ホラとでも言いたそうな顔でアレンはラビを見やった。



「はいはい、それじゃあ、邪魔にならないうちに
 僕は朝ごはん食べに行ってきますよ。」



そう言って、自分たちのいるテーブルを離れようとして
それから、あ、そうだ。と呟き、の耳元で囁いた。


「ヘタレた人を好きになると、苦労しますね?



小声でそう言って、呆ける。

一瞬の間の後、一気に頬が熱を持った。



「なっ、あ、アレン!!!?」



慌てたように言うけれども、アレンはニッコリと笑って
「それじゃあ、頑張ってくださいね」とだけ言い残して
今度こそ、本当に、テーブルから離れて行った。


「悔しいけど、しょうがないかな・・・・」なんて言う、彼の呟きは、
賑やかな人込みの声に掻き消されて、知らないままに。


「・・・・、何言われたんサ?」


「えっ、い、いやあの、別に・・・・」


顔が赤くなっているのを何とか沈めようと
手をバタバタ振ってみるも効果はまったく見られない。

ラビは、ふぅんとか、少し不服そうに呟くと、
残りの蝋燭を綺麗に円に刺して、一緒に借りてきたのであろう
マッチで、器用に一本ずつ火をつける。


そんな手の動きを、どこかうっとりと見つめた。


食堂の、眩しいほどの人工的な明かりが
ムードを一気にぶち壊すが、此れは此れでありかな、と微笑む。


全てに火をつけ終わると、ラビはまじめな顔でに向かった。


「なあ、


「ん?」


「今日さ、もう誰かにおめでとうって、言われたか・・・?」


「いや、まだだけど・・・・?」


なんでそんな事聞いてくるのか。
不思議に思いながらも首を横に振ると、
ラビの顔はパァっと輝いた。

くるくる変わる表情が、微笑ましい。


「そ、そか。
 んじゃま、いいんだけどサ」


「何、私を祝ってくれる人がいないのが
 そんなに嬉しいワケ?ラビ」


「い、いや。そうゆうワケじゃねえって」


それじゃあどうゆう意味だ、と脅してやる。
ラビは、さっさと火ぃ消さねぇと、蝋燭が溶ける!なんて、話を逸らした。

コノヤロウと思ったけれども、せっかくのケーキに
蝋が垂れるのは勿体無くて、は一気に蝋燭を吹き消した。


1つだけの、拍手の音。
顔を上げて、照れたように微笑む。
ラビは、ニッコリと微笑んで


「誕生日おめでとう、



17歳になった自分に、初めてのおめでとうをくれた。
そのラビの表情もまた、満足そうだったりする。


2人で1つのケーキを突く。
さすがジェリーの作ったケーキだ。
甘さからクリームの固さ、スポンジの具合に至るまで
完璧としか言いようの無いおいしさを頬張る。


傍から見ると、カップルの様に見えたりするのだろうか・・・


思ったら、少し緊張した。


「あ、そだ」


「何?」


「誕生日プレゼント。
 せっかくだから、何がいい?」


「今から用意する気?
 いいよ、別に。祝ってくれるだけで」


言って苦笑するも、ラビは不服そうだ。
そんな顔されてもなぁ・・・と、横の窓から外を見やる。

雨は止んで、雲がゆっくりと流れて青空を映し出そうとしていた。



「・・・・じゃあ・・・さ、ラビ」


「ん?」


「嫌じゃなかったら、お願い。
 1つだけ、聞いてよ」


言って、恥ずかしそうに身を乗り出すと
ラビの耳元に口を近づけて、呟いた。



















「そろそろ、かなぁ」


は呟く。

ラビの部屋の窓から、身を乗り出して。
雨上がりの重たくて、洗われた様な空気が気持ちいい。
肺一杯に吸い込んで、深呼吸をする。


「なあ、本当にこんなんで良いんか?
 今日任務ないって言うし、街に繰り出しても・・・」

「いーからいーから。
 ほら、ラビも隣!」


いまだ不満そうなラビの手を取って、
窓辺まで引っ張っていく。


深く染まった夏の濃い葉々が風に揺れて、
ツヤツヤ光る、露に濡れた芝生の上に深い影を落としている。


撫でる風は、湿っていて熱い夏の風。


照らす日の陽射しは、ジリジリと肌を焼く。


夏の真っ只中なんだなぁと、実感する。



「あっ」


「ん?」


「ほら、やっぱり見えたよ、ラビ」


そう言って、が指を指すその先を視線で追う。

そして、目を奪われるように見開いて
柔らかく、微笑んだ。



「・・・・・本当だ」



深く高い青空に、大きな虹の橋が掛かる。

燦々と輝く太陽の光を、空気中に残る水分が反射してプリズムになり
大きな大きな、七色の橋を、青い大空に


夏の景色に相俟って、2度とは見られない自然の絵画そのものだった。


「一緒に虹が見たい・・・か・・・」


「な、何さ・・・
 どうせ、子供っぽいお願いですよーっだ。」


フンっと、拗ねた様に頬を赤くしてソッポを向く。


「・・・いや。」


「え?」


「大正解、だったサ」


言って、ラビはニッコリと微笑んだ。

青空に反射する赤い髪。
夏の景色と、深く青い空と、大きな虹と、窓枠が額縁で、一枚の絵のようだ。


「・・・・・そう」


自然と、微笑みが浮かぶのを感じて、そして、
それを隠そうともしないで・・・・


その線を踏み越えていいのか迷ったけれども、
ソっとラビに近づいて、寄り添ってみた。

ラビは驚いた顔をしたけれども、
そのまま、ちゃっかり肩に手なんか回してきて・・・



「来年もさ・・・」


「ん?」


「来年も、こうしてられたらいいね。
 また、2人で・・・のんびりと」


「・・そーさなぁ」


その時の2人は、こうして寄り添っていることが当たり前な関係に、
なっていたら良いのにな、なんて、心の隅に思ってみたりして。





「何?」


「HAPPY BIRTHDAY.....」



今は、その微笑と、今日のこの虹と、しっかりと感じる温もりに


それから、この嬉しい言葉を


しっかりと記憶に焼き付けておこう。


思って、


2人並んで、その姿が消えるまで虹を見つめた。







                       ― fin...



去年に引き続き、自分で祝おうお誕生日企画第二弾。
早くもネタがなくなってきた模様です。

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