さわり、

風が吹いて、枝葉が揺れた。


肌を撫ですぎる風は夏。


さわさわと涼しげな音を立てている木々の葉は濃い緑で
足元には一層濃い影を落としている。


空はより青く、雲はより白く


青と白のコントラストは、目に痛むほどにくっきりとしていた。


ラビは、そんな木の枝の上で、そんな空を眺めながら、
地面にそんな影を落としている。


その隣には私がいて、やっぱり、そんな風に枝の上で空を眺めて
影を落としてぼんやりしている。


因みに、先客は私。

ラビはお客様。


「いいの?ラビ。」


「んぁ?」


「今日、ブックマンの誕生日でしょ?
 お祝いしてあげなくて。」


「・・・・・・・
 『この歳になって今更祝ってもらっても嬉くないわ阿呆!
  そんな暇が在るならさっさと修行せんかボケ!』」


どうやら、ブックマンの声真似だったらしい。


けれども、その真似は全く似ていなくて、
そんな様子に、思わず声を上げて笑う。


ラビも、自分で可笑しかったのか、一緒になって笑ってた。


「幾つだっけ?ブックマン。」


「幾つだっけか?
 忘れちまったさー。」


「ウソツキ。
 ラビがそういう事忘れるわけないじゃない。」


「ほんとほんと。
 ジジィの事は忘れるように出来てるんさ」


言うけれど、明らかにウソツキ。

でも、ラビは悪戯に笑うだけで教えてくれなかった。

結局いくつなのよ、ブックマンって。


「大事にしてあげないと駄目なんだからね?」


「うぇ〜?
 もうちょぃカワイイジジィだったら考えっけどなぁ・・」


「か、カワイイブックマン・・・?」


なんか今変な想像が出てきそうだったんだけど・・・

結局、頭が拒否反応を起こして『カワイイブックマン』の図は
浮かび上がらなかった。

なんか、想像したらいけない図だったんだろう、うん。


「・・・長生きしてもらわないとだもの。」


「べっつに、俺はどっちでもかまわねぇけどー」


「やっぱり、ウソツキだねぇ、ラビは」


「んな事ねぇさ?」


「あははっあるある。ぜーったいにある!」


だって私、ラビが誰よりもブックマンの事信頼してるのも
大好きなのも、知ってるのよ?


ラビの事だから、知ってるの。


「ラビ!もう『おめでとう』は、言ったの?」


「へ?いや、まだだけど・・・」


ラビが答えると同時に、地面に降り立った。

軽い落下感と、足への衝撃。

踏みつけた草が、
まだ乾ききらない朝露と混ざって匂い立つ

下からラビを見上げて、手を伸ばした。

木漏れ日が眩しい。

手の影が、ただ濃く自分の顔に影を落とす。


「言いに行こうよ!ブックマンに!!」


「えー?」


「だって、私からもお願いしなくちゃ。
 ちゃんと長生きしてくださいって。」


だって、そうじゃなくちゃさ、


ラビは首を傾げる。

私はただ、笑って言ってやった。


「誰が暴れてるラビの事を一蹴できるのよ?」


それもあるけど、


だってそうじゃなくちゃ、ラビは悲しい顔をするんでしょう?


そんなラビを慰める役なんか、私はごめんなんだから。


・・・・なんて、私も相当ウソツキだ。


ただ単純に、ブックマンって言う人が好きなだけ

きっと、誰かをお祝いするなんて、
そんな単純な感情だけで良いから。

それだけの、
単純な行為であり好意でしかないんだから。


「ほら、行こう?」



「・・・・しゃーねぇな。」


ラビが目の前に下りてきて、ソっと手を重ねた。




Say no, mean yes
素直に言えないから理由が欲しいんだよね、きっとさ







ブックマン祝いだったはずが、
いつの間にかラビ夢になった、日記にてお祝いしてたブツ。
こんなんでも一応、無期限フリーだったりするのです。
[BGM by litty / Image by あんず色]


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