ふわり、ふわりと


肌に痛い北風に乗せられて落ちてきた其れに、
は顔を上げる。


見上げた空は透明で、星が控えめに自らを主張する。


星明りを受けて煌き、ゆっくりと、途切れる事無く落ちてくる白は、
いっそその暗いヴェールから、耐えられず落ちてきたビーズに見えた。



「神田ー。雪雪ー」


アクマの残骸に囲まれて、は手を振る。


降られた方の神田は、口を下にひん曲げて
自らのイノセンスに付いた血を払いながら、その発動を解いた。



「・・・余裕じゃねェかよ」

「なに、神田ってばもう疲れたの?」

「ぁあ?」

「冗談だーって。怖い顔しないでよ。」



カラカラ笑って振った手の甲に舞い落ちた雪が
その熱に浮かされて消えていく。


吐き出した息が白く染まって、やがて空に消えた。


気付けば、指先は冷えて真っ赤になっていて、
ああ、もう冬か・・・と、今更のように思う。


穏やかとは言い難く、けれども不幸とも言い難く


そんな時を、暖かな季節の中過ごし、いつの間にやら一巡りして
最後と続きの季節になっていた。



「積もるかなぁ、雪。」



ぽかん、と口を開けて見上げる。


さあな、とそっけない返事が返って来た。



ふわり、ふわり



雪が落ちて、儚い星屑が降り積もる。


一つの季節だけの儚さに、
けれどもその姿は、どこまでも純美で壮麗だ。


明日の今頃、この地は雪に覆われて


この無残なアクマの屍骸も、まるで何事も無かった様な
白に隠されるのだろうか。


弔いの華が雪だなんて、このアクマ達も浮かばれるかもしれない。


そうなれば、良いと思った。


冷たい指先が、そっと髪に降り積もった雪を払った。


そんな事をしても、すぐにまた髪は白に覆われて、
熱に浮かされ溶けていく。


意味を成さないことなんて分かってはいるのだろう。


素直に髪を撫でられない照れ隠しのつもりだったのだろうか


目の前の彼を見上げれば
微かに視線を揺らして、小さな動揺を見せる。


そんな姿に思わず漏らした笑みが
吐息となって、空に高く、高く、上っていく。


少し咳払いをして言った神田は、
いつもの通り、素っ気無かった。


「行くぞ。」

「うん。」


それが自然であるように


そっと繋いだ手の平は、
お互いの冷えた体温を伝えた。



雪が、ゆっくりと時を掛けて降り積もる。



季節が巡り、この雪が解ける頃


自分はきっと、この場所の事なんて、忘れているだろうけれど


その時にも変わらずこの体温が傍にある様にと、
願い事のようにそっと白い吐息に乗せた。


そのままアクマ達の魂と一緒に、
神様の元に届けてくれたら良いのになんて、思いながら――


白 雪 に 君 を


- CLOSE -