手を繋いだら  温もりを

感じられたら  微笑を

浮かべた時には 口付けを

交わしたのなら 微笑を





スノードロップ
見た朝は




黒の教団のインテリ集団は、非常に大変だ。
エクソシストも十二分に大変なのだが、
が此処に来て最初に見たのは、そのインテリ集団・科学班の仕事部屋で
点滴をしたりヒエピタを張ったり、騒々しい割りにカリカリペンを走らせる音が
やけに大きく聞こえて、少し薄暗い室内は
異様であり、独特の雰囲気を放っていた。

そんな光景を最初・・・昨日に見てしまったものだから、
どうにも気がかりで、は朝早くに科学班を尋ねた。

エクソシストが、そんな科学班の仕事なんて―・・と言われたが
”自分はまだ任務もないし、リナリーだってやっている”と言ったら、
コムイが簡単な仕事をくれた。


「簡単・・・なんだけど・・・」

力のない声が廊下に反響した。

現在時刻AM7:00。

教団内は、一部の部屋で穏やかであり
一部の室内では格闘中だ。

の仕事は、資料室から指定された資料を科学班室に運ぶことだった。

たしかに、簡単だ。

だが、量が半端ない。

元々の身長だって、高いかと言えば違うが、
それにしても、傍から見れば積み上げられたファイルその他諸々に
脚が生えて不安定に歩いているようだった。




あっちへフラフラ



こっちへフラフラ



「ぅわあっ!!」




転んだ。




資料がファイルから飛び出して、廊下一杯に散乱する。
大惨事だ。


「ぎゃーっなんでこうなんのーーっ!?
 ちょっ、グチャグチャじゃんっ!?こ、これ、なんの資料かなぁ・・・」

バラバラの資料を取り上げてほとんど半泣き。
既に資料は、どのファイルに入っているのが所定なのか分からない。

どうしてこうなるんだ、やっぱり部屋で大人しくしておけば良かった。と
今更だが後悔を始める。

バラバラの資料の端っこに、
どのファイルの何ページ目かが書いてあるのを見つけたのがせめてもの幸いだ。


これ以上皆を待たせてはっ!と、早急に資料を掻き集めはじめる


「あの、此処、通って良いですか?」

「へっ?」


集め始めて、やっと廊下の冷たい床が見えてきた頃。
フと後ろから声を掛けられた。


「あ、あーっわーっゴメンナサイッ!」


散らかった資料が通行の邪魔なのだと気付いて、
慌てて未だ散らばる資料を掻き集める。

ついでに、半分位集め終えてた資料も共に―・・・・


「や、やり直し・・・・」


は項垂れた。
半分を、器用にも混ぜ込んでしまった。

お陰で、最初からやり直しだ。


「どうぞ、お騒がせしましたー・・・・」


もう涙を流しそうになりながら、声を掛けた人物を振り返る。
白い髪の目に付く少年は、のその様子に噴出して、笑い出だした。


「な、な、何!?」


資料のやり直しをしようとして伸ばした手を止めて、少年を見上げる。

綺麗な白い髪は、朝の光を受けて、不思議に透き通って
サラリと頬にかかっていた。


「あ、す、すみません。えっと・・・
 手伝いましょうか?」

一通り笑い終えてから、フォローにならない謝罪を入れて、
それから、困ったような笑顔で問いかける。


「え、助かるけど悪いです」


すっごく助かるし、っていうかむしろ、ぶっちゃけ助けて欲しいのだけど
それでは、少年に悪い。


「いいですよ。これから、朝食取りに行くだけですし。
 これ、ページ順に纏めればいいんですか?」


「あ、は、はい」


結局、助けてもらうことになってしまった。

数分後には、廊下は随分とすっきりとして、
資料もすっかり、元のファイルに戻っていった。

挙句の果てに、運ぶのも手伝ってもらっている。

白髪の少年・・・名をアレンと聞いた。

そのアレン曰く、
「危なっかしくって心配ですよ」らしい。

言い返せる言葉も無い。

けれども、自分もこの大量の資料を化学班室まで持っていく自身も
皆無なので、正直助かった。

「最近、此処に来たんですか?」

「うん」


道中、アレンが話しかけてきて
が頷く。

「昨日来たばっかり。話せる人いなくて、少し不安だったんだよね。
 アレンみたいな人が居てくれると、ホント、安心する」

ホっと息を吐いて言う。
柄にも無く緊張していたので、少し安心した。

言ったらアレンは、”ああ分かります”と頷く。

少し微笑むその姿に、は少し思い立つ。

「アレン、スノードロップみたい」

「スノードロップ・・・ですか?
 あの、白い花?」

「そう。よく知ってるね」

「ええ、まあ。」

「私、あの花好きなんだけどね、」


あの見惚れるほどに美しく、白い花が
貴方の笑顔に重なるのだ、と。

呟くように、は言う。


そんな他愛も無い会話の後、気付けば目的の部屋につく。

「じゃあ、僕はこれで。」

「あ、うん。手伝ってくれて、本当にありがとう」

大丈夫?と、アレンの持ってた資料を乗っけてもらって、
は頷き、ソレをしっかり持つ。



「あ、そうだ。
 最後に、ちょっといいですか?」


「ぅん?」



意味があるのか分からないノックをして、騒がしいであろう
科学班室に入ろうとすると、アレンがを引き止める。


「さっき言ってたスノードロップの花言葉、知ってますか?」

「花言葉?あー・・・・いや。
 花は好きなんだけど、花言葉は、あんま詳しくなくて」


首を横に振る。
申し訳ない気分のとは逆に、アレンはソッチの方が好都合、と
言わんばかりに、微笑んだ。


「時間があったら、花言葉も調べてみてください。
 それが、僕が貴方を手伝った、本当の理由ですから」


「?スノードロップの・・・花言葉ね?
 わかった。調べてみるよ」


時間が出来たらでいいですからね。と、付足したアレンの背中を
見送って、は再び、意味のないノックをして科学班室に入った。










「スノードロップ・・・・」

リナリーから借りた本で、彼が言っていた花の花言葉を
食堂にて探す。

白く小さな花が数個、下を向きながら咲く様が
彼の笑顔に重なって見えるのは、目の錯覚か、ついに頭をヤられたか―・・・・


説明の項目を、下へ下へと指先をずらして、
一点で、その指を止める。


「花言葉は―・・・・」

そして、目を見開く。


ふわりと、何か甘い香が薫る。
驚いて振り返ると、彼が居た。


「花言葉、分かりましたか?」


不思議な色に輝く白髪をサラリと頬にかけて
綺麗に微笑む。


「――――――――・・・・・。」



赤い顔を隠そうともせずに、先ほど知った
愛らしい花の花言葉を呟く。


可愛らしい花にピッタリの、そんな、花言葉―・・・・



「正解です。」


見惚れるほどに綺麗な笑顔。

やはり、あの白い花に似通う。

清冽なほどに白く、人の記憶に残ろうとする花―・・・・




「・・・・私も」


「え?」



「私も、同じかもしれない。
 ・・・・スノードロップ。」



いつもと違う朝は、白い花の様に可憐


それは、そう


『初恋のきざし』を夢見た朝に―・・・・・・




                ―fin....



[BGM by : beyond]

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