―― さわり


微かに甘い秋の風が吹いて、
視界の端に入り込む緑が、ユラリと揺れた


昨日降った雨のせいだろうか


枯れ草でふわふわの土の香りがより際立って、鼻の奥を擽った。


未だ湿気を含む地面は、
寝転がる背中にも、じわりじわりとゆっくり、それを伝えていた。


「あんまそうやってっと、背中濡れっぞー?」

「いいよ、別に。」


その一言で、会話は終わる。


あーそうかい、とラビの呆れたような顔が見下ろしていた。



空が、高い。


寝転がっているから、いつもより余計に高い。


手を伸ばす。届かない。当然なのは、知っている。


けれども、そんな素っ気無い空が、
まるで自分の事なんて嫌いだと言ってるみたいで


ちょっとだけ、寂しくなった。



―― ふわり、さらり


風が吹いて、そんなもの、ただの思い込みだと確かめる。


けれども、確かに


小さい頃は遠い空を見上げても、
素っ気無いだなんて思わなかった。


高い空に憧れて、それはちょっと、恋にも似てた。


そんな、無邪気な、恋みたいな――


それに応えるみたいに、
空も自分を愛してくれてると思ってた。


あの日との違いは、何だろう。


今の自分は、何だか突き放されたような気がしている。



幼い自分と、今の自分



それはただ単純に、大人と子供の違いなのかもしれない。


だとしたら、それはちょっと、平等じゃないな、と思う。


なんだか、少し泣きそうだった。



「ほい、」

「え?」


ひょいっと視界の中心に、
少しくすんだ緑と大きな手が入り込む。

思いがけない登場に、は目を瞬いた。

少し視線をずらしたら、ニッコリ笑った赤が居た。


「・・・・・何?」


ムクリと起き上がって、
その手の平から緑を受け取った。

自分の手の仲に収まったそれは、
その辺に生えているのと同じ、クローバーだ。


秋の季節のせいだろう。


鮮やかとは言えない色に、先の方は少し、枯れかけている。

大きさも随分とこじんまりと控えめで、
北風に変わりつつある風に曝されて、酷く冷たかった。


自分たちの周りを
グルリと囲む様に生えているクローバーと、変わりはない。


けれどもそれはちょっとだけ『特別』で
くすんだ色をした葉は、ちょこんとした4枚付いていた。


「たまたま見つけたんさ」


やるよ、と言って、ラビ。

は、小さなそれをゆっくり見下ろした。


何処か懐かしい記憶を、チクチクとつつく感じがした。


「・・・・昔はさ」

「ん?」

「クローバー見つけるの、得意だったんだけどな」



たくさん、たくさん


それこそ、両手が必要なほどに見つけたそれ


小さい頃は、幸せで両の手が溢れていた。


「大人と子供の違い――なのかなぁ」


今は周りを見ただけでは、四ツ葉は見つけられなくて

大人と子供の目線の違い――それは、物理的な目線の高さと言う意味も含めて
自分の目の前にある世界の、捉え方の違いだろうか


ぽんっと、頭の上に手が乗った。


見上げた先で、ラビの赤は笑っていた。


「良いっしょ、別に。違ってたって」


昔のお前は知らんけど、今のお前は結構好きさ


ラビはやっぱり、にっこりして言った。


手の中のクローバーを、見つめる。


ほら、と促されて、首を捻った。


「折角の四ツ葉さ。お願いしないと勿体無いっしょ?」

「―――ああ、そっか」


懐かしいゲームを、思い出したように


ラビの笑みに応えるようには笑う


高い空を見上げて


空はやっぱり素っ気無く、けれども確かに


笑い返してくれてる気がして




「              。」




まるで小さい頃に戻ったような、そんな願いを口にした



ラビは面食らったような顔をしていたけれど


少しの間の後、照れ隠しのように抱きしめてくれた。





に焦がれてを知り
緑に託したお願い事が、叶うかどうかは貴方次第

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