鳥籠向こう側






「なぁにしてんの?」

「ぼんやり。」

「あ、そ。」



教団の中庭でぼんやりと眺めた空を遮る様に、赤い髪が揺れて覗き込む。

容赦なく自分に落ちてくる影を見上げて答えたら、
赤髪の当人は、納得したのだか良く分からない返事を返して、その隣に腰掛けた。




「・・・・・何してんの?」


「ん?俺もぼんやりしようかと思って。」


「・・・・神田にしごかれてたんじゃないの?」


「・・・・・・・・何で知ってんの?」




此処に来る途中に見た。


言ったら、ああそう、と、少しグッタリした表情だった。



「俺あんな修行馬鹿じゃねェもん〜。」


「そうね、きっと足して2で割ったくらいが丁度良い――あ、アレンも足したら尚良し。」


「うへぇ・・・・・俺は遠慮したいさぁ・・・・」


「そう?」


「完璧っぽい感じがヤダ。」


「あー・・・・・」



そうかなぁ。


首を傾げてみせる。


完璧はいらないさ。


彼は答えた。



「今の自分に満足って訳でもないけどなー」


「うん、」



そうかもね、


今度は少し、肯定も入る。



「ねえラビ。」


「んー?」


「今幸せ?」


「・・・・・・どうだろうな、とりあえず不幸ではないと思うけど。」



不思議そうな顔をして、返答をくれる。


赤い髪が、冬の透明な空に反して映える。


高い高い空と、風に揺れる赤い髪をぼんやりと見つめながら
そっか、と答えて。



「・・・・・・・・・センチメンタルな気分なん?」



似合わないさー。


言われてしまって、微かに笑う。


私もそう思う、と付け加えて。



薄い雲が流れる空に、手を伸ばした。



「センチメンタルって訳じゃないけど。」


「そうなん?」


「んー・・・・何か、ちょっと飛び出したいと言うか」


「・・・・・・早まるな、。」


「いや、飛び立ちはしないよ、そんな生き急がないよ。」



そういう事でなくさぁ、と。


少し複雑な気分になりながら起き上がって
何ていうの?と頭を掻く。


「鳥籠の中にいる気分?」


「・・・・・センチさなぁ。」


「あー・・・・うん、まあそうかも。」



冬だしねぇ。


呟けば


お前も女の子だったんさなぁ。


しみじみ言われてムッとする。



「だって、なんかさ。」



別に普段、この生活がとても不幸ですか、と言われれば

実は結構そうでもなくて


人がたくさん死んでいって、自分も傷だらけになって
明日死ぬかも、とか、明日コイツいないかも、とか

そんな事を、考えなくてはいけない所ではあるけれど。


でも、そんな生活を悲観するだけにも疲れてしまって
そんな中で見つけられる幸せを、幸せだと思う事。


毎日を、全力で生き抜くこと――それは、必要な時に笑って、怒って、泣いて


そんな毎日を、全力で駆け抜ける事で、悲観する暇もない位に。


だから別に普段、この生活を不幸に感じているかと言われると、
実は結構、毎日不幸なんて感じている暇なんてないのだ。


けれども、たまに


例えばこんな日みたいに、いろんな事を考える余裕が出来てしまったり、
なんかちょっと、色々考えたい気分に浸りたい時だったり


そんな時に、フと、思ってしまう。



「・・・・私、生きてる限りずっと此処にいなくちゃなのかなぁ、とか。
 考えると、何か、鬱だわ。」


「そりゃまた・・・・」



随分ネガティヴさな。


言われて、眉根を寄せる。


自分でもそう思うくらい。


けれども、毎日を全力で駆け抜けて、目を向けてこなかった分
一気に押し寄せるのは、一際強いソレなのだ。



「さてっと。」



足を少し地面から持ち上げて、下ろす反動に任せてラビはそのまま立ち上がる。


再び自分に落ちてくる影を見上げて、
ラビは、逆行に赤い髪を透き通らせながら、笑った。



「ぼんやり終了。」


「えー、」


「んなとこでぼんやりしてっから、センチな感じになっちまうんさ。」



ってぇ事で。



グィっと


駄々を捏ねて地面に根を張ろうとした自分を
ラビが力強く引き上げて、立ち上げた。


と、思ったら、そのままダッシュだ。何処へとも知らず。



声を上げるまもなく呆気に取られている自分をラビは
腕を引っ張って、何処へ行く気やら分からない方へと向かってひた走り、笑顔で振り返る。


「外行くぞ!」


「はぁ!?」


ようやく声が出た。

素っ頓狂で言葉にもなってないけれど。


「鳥籠なら此処にあるんさ、最後は此処に戻ってきたら良い。」


それまで遊びに行くぞー、


言うラビの声はいつものように軽快で
途中通り過ぎた科学班らしき人が、廊下は走るなと怒鳴る声も簡単に通り過ぎて



毎日を、全力で生き抜くこと――それは、必要な時に笑って、怒って、泣いて


そんな毎日を、全力で駆け抜ける事で、悲観する暇もない位に。



窓枠の形に切り取られた空を見上げる。


自分達よりもゆったりとした速度に見える雲が、
透明な空をただ気持ちよさそうに流れていた。


その空へと飛び立つように。まるで鳥のように。


そう思うと、なんだかワクワクした。




「ラビ!早く行くよ!!」


「おまっ現金過ぎさ!早っ!!」




いつの間にか、先を走っていたはずのラビを追い越して

そんなラビの手を引いて、


切り取られていない、まっさらな空の下へと飛び出した。







生きよう――生きるのだ、駆け抜けるかのように、ゆっくりと。