あなたが

全てを愛するなら

私は

あなた全てを拒絶しよう



って拒絶しないで




あの頃の空は、私にとって孤独だった。
この世界で一人になった幼すぎる私を
小さな手で抱きしめて、見上げた

空は 嫌い

空はいつも、一人ではないから

たくさんの人に見上げられ、愛されて

孤独な私は、空を嫌った


『空は万物を愛する母である』


昔、誰かが言っていた。

愛して、愛されることしか知らない空

幼い体を抱きしめて、睨んだ

空は穏やかな青を広げて
ただ、哂うだけなのに・・・・



歳を重ねるごとに、自然と空を見上げることもなくなった。
意識して、見上げる必要も、避ける必要も無い。

毎日の忙しさに追われて、私の中で自然に空の存在は消えた。

いつしか、空の本当の青さだって、忘れた。

そんな、頃だった・・・



「おっ」

「ぇ?」

任務の帰り道。
突然ラビが声を上げた。

「どうしたの?」

「いや、なんか・・・
 今日の空、すげぇ綺麗な気がしね?」

「ぁ・・・うん。」

やっぱ地域によって、空の見え方は違うよな〜。

嬉しそうに笑うラビに、
は生返事をして俯いた。

「おーい、〜?
 空は上だぞー?下じゃぁない」

「・・・・いいじゃん。別に・・・」

覗き込む淡い色に、微かに染まる頬を隠すよう
はポツリと呟いて、ツイと視線を逸らす。

「私、空は嫌いなの」

「えー、なして?」

思い出さなくて良いものを、わざわざ彼は思い出させて
挙句、理由まで聞いてくる。

別に構いはしないけれども、
この話をするとき、私はまだ大人になりきってないって。
実感させられる感覚は、好きじゃない。

「・・・空は、悲しい事を知らない。
 ただ、みんなを愛して、みんなから愛されて・・・・
 空は一人じゃない。
 私は・・・・・昔からずっと独りだった。だから、嫌い」

人はその感情を一般に『嫉妬』と呼ぶんだろう。
自分だって、それは分かっている。

だから、自分はまだ子供だ。

感情すらない空に嫉妬して、何になる

人に話をしたのは、コレが初めてではないけれど
大抵、話を聞いた人は笑った。

『お前は愚かだ』と

この人も、笑ってくれたらきっと
私は・・楽だった・・・

なのに

「それは違うんじゃね?」

「ぇ?」

なのに貴方は、優しく諭す

いつもよりも、ずっとずっと優しい笑顔で
頭なんて、撫でながら

「空は、悲しいことも、辛いことも、ぜーんぶ知ってるサ。
 だから・・・・・
 人間が、悲しい生き物だって知ってるから、愛するんだ。
 寂しくて、泣いたり、嬉しくて、笑ったり
 傷つけて、傷つけられて、ボロボロでも必死に生きる。
 そんな愚かな生き物を、それでも空はどうしようもなく愛おしいから。
 だから空は、だれでも平等に愛してくれるんサ。」


ホラ、とラビは、の腕を引っ張って
自分の前に出すと、空を指差した。

その腕を伝い、ゆっくりと視線は上に上る

見上げた空に、目を奪われた。

穏やかな、淡く優しい色
透明で限りなく続く命の色

全てを受け入れる、本当の・・・青


ずっと忘れていたその色が、目の前いっぱいに広がっていた。

「なっ?空が嫌いだっつってるにも
 同じ。綺麗に見えるっしょ?」

ラビはどさくさに紛れて、
後ろからの体を抱きしめる。

いつもなら、裏拳かましてバカみたいに騒いで・・・

けれども、今は・・・

その温もりが、どうしようもなく愛おしくて・・・・


「・・・・・うん・・・・」


首に回される甘い香りをさせる腕に
自らの手を、ソっと添えた



あの頃の空は、私にとって孤独だった。
幼すぎる体を、小さな手で抱きしめて
哂う空を、睨んで拒絶した

時が経って

今の私は、独りじゃない

成長した体を、
大きな温もりで抱きしめてくれる人が出来た

その人は、優しい笑顔で教えてくれた

空の偉大さ

優しさ

世界で一番綺麗な、青のこと

忘れていた私に

貴方の、笑顔が―・・・・・・


        ― fin...




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