どうって事ない今日が終わって、何てことない明日が来る。

全ては過ぎていく時間を積み重ねていくだけの、無意味な事象。

通り過ぎた時間はその内、思い出とか過去とかに、名前を変える。



「ねーディーノ」


「ん?何だよ
 アルバムなんか引っ張り出して・・・」


「白人には蒙古斑が出にくいって本当?」


「・・・は?何でまたいきなり・・・」


「いや、ここに幼いディーノのヌード写真が・・・・」


「をををををっ!!?」



言ったら、目の前からアルバムが消えた。

おお、ディーノってば部下が居ない割りに早かったな。


「冗談」


カラカラ笑って言ったら、肩で息したディーノがアルバムを抱えて
「そういう冗談達悪いぞ!!?」と訴える。


「・・・別に今更、ディーノのヌード見てもなぁ・・・」

「そういう問題じゃなくてだな・・って言うかお前、仮にも女なんだから
 そういう事サラっと言うなよ・・・!」


そういう事を”シテ”るのは貴方でしょうに・・・


まあ、それは良いとして。


「そういう問題じゃないの?」


「じゃないの。」


言って、ふうっと息をついて、隣に腰掛けてくる。


ふわふわのソファが沈んで、ディーノの方に傾いたから
そのまま、その肩に凭れてみた。


サラリと、その長い指に髪を絡めながら、
「それは何つーかプライドって言うか、何かこう色々とこの頃は小さいしだな・・・」と、
ブツブツ呪文の様に唱えている。



「・・・大丈夫よ、ディーノ。
 想い出は時が経てば美化されるわ。」


「風呂で溺れたり犬に踏み倒されたり鼻水垂らしてた様な記憶を
 どーやって美化すんだよ・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「それで結局、蒙古斑って出るもんなの?」


「話を不自然に逸らした挙句にまたその話か・・・・?」



戻るって言うか、寧ろ振り出しに戻る、が正しいと思う。

ディーノが、情けないんだか何なんだか、苦笑して此方を見ていて、
何となく、自分も苦笑を返しておいた。


それから、は思い出したように、笑いを噛み殺したような声で尋ねた。



「そういえばディーノ、それこそ今
 蒙古斑みたいになってるんじゃないの?」


「は?」


「落ちてたでしょ。昨日、階段。」


「・・・・・・見てた?」


「バッチリ。」



答えたら、いよいよ笑いを堪えきれなくなって、噴出した。


だってあの、見事な落ちっぷりと言ったら無い。


お尻からズダダダダーって。


あれは絶対に、見事な蒙古斑が出来上がってるはずだ。


ディーノが赤い顔をしてバツが悪そうに向こうを向いて、
はただ、腹を抱えて笑っている。



「・・・笑い過ぎだ。」

「あはは、ごめんごめん。」



いい加減ディーノが言うから、は一応謝っては見せるけれども、
良い感じの所に嵌ったらしく、中々笑いが止まらない。


その時フと、髪を弄っていた手が唐突に肩を抱き、身体を引き寄せて。


少し強引なキスが、落ちて来る。


「・・・笑い、止まったか?」

「まあ、見ての通りね。」


笑いを塞いだキスは少し長く続いて、息を接ぐ間にディーノが尋ねて。

悪戯っぽく笑ってが返せば、再びキスが紡がれた。

そうして幾度目かの息継ぎを繰り返した後に、
ディーノはいっそ、開き直ったのではないかと言う笑みを湛えて、言った。




「ん?」

「確かめてみるか?蒙古斑。」

「・・・遠慮する・・は、聞かなそうね?」


困ったように返すが早いか、ディーノはゆっくりと首筋に顔を埋めて、
脈を探るように唇を這わせる。


柔らかい髪の先が頬を擽る感触に、は目を閉じて。


その髪を、そっと梳いた。


「ねえ、ディーノ。」


「ん?」


「想い出は、美化されるんだって。」


「ああ。」


「・・・想い出には、ならないでね。」


「・・・分かってる。」


閉じた瞳の向こう側で再び、短い、けれどもずっと優しい口付けが


そっと、落ちてきた。


どうか、想い出にはならないで。


貴方が居なくなった時間の中で、フと貴方を思い出したその笑みが
本当の笑みではなかったような錯覚に陥る。


そんな無意味で空虚な時間に、私はきっと、耐えられようはずも無いから。


永遠に、此処で。


貴方の愛に抱かれていたいの。



しいだけじゃ きられない
感 情 は 空 虚 、 リ ア ル が 欲 し い だ け




















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