足元に血が広がる。

噎せ返るほどの鉄の生っぽさ。

ガクガクと震える身体を抱きしめて一歩後ずされば、
彼女から溢れ出した赤いものが、その軌跡を描いた。


横たわる、彼女の白い体。


その向こうに、笑っている男が居る。

そいつは、いとも容易く、自分の目の前から友を奪った。


「う・・・ぁ・・・・」


声にならない言葉が、渇く喉元から漏れ出して、
六道骸は楽しそうに笑う。


「どうしました?。」

クスクスと、楽しそうな声。

反響する声が、まるで自分を馬鹿にしているみたいで、
目の前のの体なんて、夢なんじゃないかとも思う。


「なん・・・で・・・」


精一杯に、声を振り絞った。

骸の瞳を睨み返して。

震える声で。滲む視界で。


「なんで・・・なんで、なんでっ!!!どうしてが殺されるの!?
 私が何かした!?が何かしたの、ねえっ!!!」


”樺根”という優等的なクラスメートは、突然に自分を呼び出し
自分が本当は”六道骸”と言う名である事を告げると、
既に息絶えていた親友を、投げて寄越した。


ぐしゃっという音と共に、手が足が、好き勝手な方向を向いていて、
乱れた髪から覗く瞳は、暗鬱に落ち窪んで何も捕らえていなかった。


その奇怪なゴム人形を、先程まで一緒に昼休みを過ごしていた友達だと
認識するまでの時間は、余りにも長かった。


「いいえ、何も?」


取り乱すに代わり、六道骸は冷静に言った。


ゆっくりと、此方に足を踏み出す。


の血溜まりに足が浸り、粘着質な水を踏む音が響いた。



「や、やだ・・・来ないで・・・」


「何もしていませんよ、君達は。」


「来ない・・でよ・・・」


「そう、言うならこれは、嫉妬です。」


「いや・・やだ・・・」


「いつでも君の隣に居た彼女に対する、嫉妬心。」


「や・・殺さないで・・・!!」


噛み合わない会話。


怯える様に叫んだ瞬間、歩み寄り伸ばされ掛けていた骸の手は
ピタリと、動きを止めた。



「愛しています。」



唐突に聞こえた言葉に、目を見開いた。

弾かれるように、顔を上げる。


親友の血で真っ赤なその手を伸ばしてくる男は、
それだと言うのに、余りに優しい目をしていて。


そのオッドアイの瞳に、吸い込まれそうになる。


「愛しているんですよ。何よりも、貴女の事を」


何を―――言っているんだろう、この男は。


何を考えているんだ。


今、こんな所で、こんな状況で――・・・


こんな手で、言う言葉じゃない。


フと伸ばされた手に、は首を縮めたが、
骸の手は優しく目元をなぞっただけで。


の血が、の目元を縁取る。


ムッと鼻を付くのは、不快なほどに生臭い鉄の匂いだった。


呆然と見上げるに、骸は微笑んだ。


「ですからどうか、僕の事を憎んでください。
 忘れられないほどに深く、深く、恨んでください。」


そう言った彼の微笑みは、友の血に汚れて、歪んで



―― どうしようもない位に、綺麗だった





場違いな告白
他人のままでいる位なら、恨みでも思われている方がマシだった




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