何者にも捉われない、自由気侭な孤高の浮雲

それが、彼の不思議なリングの属性

ああまったく、彼にこれ以上ない程にぴったりだと思う。

選んだ人間も、人間だ。

彼の事を良くわかってる。


そんな事も興味が無いという彼だけれど、
その発言すら彼の属性を体現しているのだから、
ある意味皮肉なのかもしれない。


興味がないと言われても、やっぱり彼は雲なのだ。


ふわふわ、ふわふわ


風任せというよりは、風にすら逆らっていそうな彼


掴もうとしても掴めなくて、
彼ばかりを見つめてしまう自分は、ヤキモキさせられる。


ああもう、まったくもってフェアじゃない。


八つ当たりに近いのを承知して、彼にそんな言葉を零したら、
雲雀は珍しく、少し笑って返してきた。


「僕が雲だって言うなら、君は海になれば良いよ」


何よそれ、と、口の中で毒づく。


「海は空ばっかり見てる。
 空を映して焦がれるばっかりなのに」


そんな寂しい役どころ。


ともすれば、自分はもう、ある意味海に近い存在だ。


一生焦がれるだけでいろってか、
どれだけ意地が悪いんだろう、コイツは。


けれども雲雀は溜息を吐いて、本当に頭が悪いね、と。


頭の出来が悪いのは認めるけれど、
コイツは性格の出来が随分悪い。


ついでに言わせてもらうと、
口の方も少しばかり悪いみたいだ、流石に凹む。


雲雀は、ゆっくりとその長い指先で
目を通している資料を捲ってみせる。


「雲を作っているものが何か、位は
 頭の悪い君でも、流石に分かるだろ」

「一々一言多いんだから・・・
 雲を作ってるって、そりゃ水と―――ああ、そっか。」


ポンっと手を打つ。


まあ気付いただけマシだけどね、と雲雀は言って。


海は空ばかり見ている。

けれども、空に浮かぶ雲を作り出すのは、きっと海もその一部。

届かない空を地で焦がれるばかりではあるけれど、
別に報われないわけでもない。



「なんか、結構複雑な役どころだなぁ」



喜んで良いのか分からないじゃない、と
不貞腐れたように呟くと、彼は薄く笑って、パサリと資料を机に置いた。


「安心するといい」

「え?」

「君が僕の所に来たら、雨になんかさせないから」


ずっとこの腕に抱きしめたまま、地上へなんか帰らせない。


ずっと自分の隣において、


離してなんか、あげないから―――・・・・



「君が海になるのなら、覚悟してなるんだね」



それだけ言うと、彼はまた
意識を資料へと移してしまった。


言うだけ言って、言われた方はポカンとしている。


「あ、の・・・雲雀?」

「・・・・・。」

「もう、やっぱり性格悪い。」

「君にだけは言われたくないね」

「何ですと!?」

「良いから、いつまでサボってる気?」


君の目の前にある書類、ちっとも量が減らないんだけど。


言われて言葉を詰まらせる。


目の前には、一向に片付く気配を見せない、書類の山。


コイツは処理の終わった書類に目を通すだけなのに、
それを処理している自分の、なんと重労働な事か。


まったくもって、フェアじゃない。


恨みがましく彼を見て、しぶしぶ書類を引き寄せて
ほんの少しそれに目を通してから、言った。



「ねえ、雲雀」


「・・・・何」


「覚悟、なんてさ、もうとっくに、出来てるんだよ」



君の傍に寄り添った時から、君だけのものになる覚悟。


むしろ、その位の思いがなくちゃ、
この自由気侭な女王様の傍にいようなんて気にはならない。


言ったら、雲雀は少しだけ驚いた顔をして
ツイっと、顔を窓の向こうへと向けてしまった。


だから、彼がどんな表情をしていたのか
分からなかったのは、ほんの少しだけ、悔しかったけど・・・


「やっぱり、君のほうが性格悪いね」

「へ?」

「なんでもない。」



それなら、勝手にしたら良いよ、と


雲雀は最終的に、そう言って資料へと目線を戻した。




雲の路に焦がれ
(それなら僕は、もう離さない)

- CLOSE -