見上げた秋の空は

高く、青く、透明で

いつの間にか、

遠く、遠く―・・・・




掠れた
奏でた




例えば、あの日と同じ場所で、同じ秋と言う季節の中、
同じ夕暮れ時に、あの日の様に高く響く草笛を奏でたのだとしても、
貴方が隣に居ないという事実だけが、全てを無意味なものに変えてしまう。


「ねぇ、骸サマ?」


誰も居ない空間は寒々しくて、土手先の草が、夕日に赤く揺られている。



「草笛、上手になったでしょう?」


あの日の彼は、ちょうど今コスモスの揺れている辺りで
自分の手を取り、まるで、子供にそうするように、草笛の奏で方を教えてくれた。



『そう、唇をこんな形にして・・・・。
 ・・・・おかしいですね、何で鳴らないんでしょうか。』


『もー、良いですよ、吹けなくてもっ。
 私は、骸サマのを聞いている方が好きです』


彼の奏でる、優しく響く高音が好きだった。

その気になれば、多分簡単に吹けるけれど、自分は
骸の音を聞いている方が、ずっと、ずっと・・・・


「うるさいんだもん、骸サマってば」


それなりに音が鳴るようになった頃、2人で続く限りに音を鳴らして、
高く響く、少し質の違う音が、遠くの方まで綺麗に響いて、


でも、少し自分が音を外したら、
『ほら、また外れましたよ』なんて、細かくダメ出ししてくる。
まったくもう、なんて、その度に溜息。


『骸サマ、姑みたい!』


言ったら、さり気にヘコんでて、後で犬ちゃんに当たってた。


懐かしい日々を思い出して、草笛を奏でる。
あの日の二重奏は、哀しく響く1つの音。


『そういじけないで、ほら、
 もう一回やりますよ』


そう、優しく頭を撫でて手を差し出してくれるあの人は、
今、隣にはいない。




「ねえ、何処に居るんですか、骸サマ」



ねえ、とても上手になったでしょう?

もうね、文句なんて言わせないよ。

今度は、私から貴方に手を差し出しますから、


ずっと永く、一緒に草笛を鳴らせますから、



「・・・・骸サマ。
 私の心は、貴方と共に・・・・」


せめてこの音だけ、
届いていてくれれば良いのだけれど・・・・・。



              ― fin...





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