「僕が貴女の闇となります。
 ですからどうか、貴女は僕の光となって、いつまでも
 僕の隣で輝いていて下さい、僕の分まで――」

「いつからアンタは人の闇まで背負い込む
 自虐精神満載なドMヤローになったのよ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」



別に、元々ムードがあった訳でもないけれど。


それにしても色気の無さ過ぎるその返答に、骸は
困惑半分、呆れが4割、一部がちょっとした怒りの割合でを見やる。


けれども当の少女はと言えば、全く気にした様子も無くて。


「何ですか、私の顔に何か珍しいものでも付いてますか」

「・・・いえ、極々一般的なものしか。」

「あらそう、それは良かったわ。」


言って、会話の為に持ち上げた視線を、再び
手にした本へと落とす。


多分、彼女が愛読しているファッション雑誌だろう。


そっちの色気はあるくせに、答えの色気は一欠けらだって無い。


「たまには素直に、僕の愛を受取りませんか、

「それが貴女の愛ならば、私は全力でこの場から逃げたいわね。」

「・・・・何故ですか」

「それくらいは自分で考えろ。」


言われて突き放されてしまっては、自分としても考えるより他にないけれど
心当たりがあるかと言えば特に思い当たる節もなくて。


―― あくまでも多分、だけれども


だって全ては愛の為だ、愛ゆえだ。


愛の為せる盲目なのだ――ってこれが駄目なのか?


けれどもならきっと分かってくれるはず


ってだからそれも駄目なんだろう、きっと。


―― 思い当たる節はないのだ。・・・・・・多分



「・・・降参です。、答えは?」

「・・・相変わらず忍耐のない奴ー」

の問題が難しいからですよ」

「単純な事を難しく考えるからよ、」


だって、凄く単純よ?


は、軽く息を付いて本を閉じる。


「私の闇はあくまでも私のものだし
 骸の光も、あくまでも骸のものだもの。」


光と闇なんて、今時そんな例え、B級映画並みにクサイけれども


それでも、光も、闇も、どちらか一方に押し付けたら
きっと両方壊れてしまうんだろう


ただ純粋に光であり、闇であることは
ただの人間でしかない自分たちには、きっと凄く苦しいことだ。


「それに私、誰かの光になれる程キレイでもないから。」


キレイな所も、汚いところも


両方あって私であって、両方あって人だから


キレイな所は良い事だけれど

汚い所は悪い事ではないのだ


「だから、押し付け合いみたいな自殺ルート通る事が
 骸の愛だって言うなら、私は私の為に、全速力で逃げるわよって事」


ほーら、単純だった。


言って、は手にした雑誌で、軽く頭を引っ叩く。


単純ですが難しいですね、と
さして痛くも無かった頭を押さえて言えば、は軽く肩を竦めた。


「だから面白いんじゃないの、人間なんて」と


彼女はそう言って、その勝気な笑みが
どうしようもなく愛おしく感じて


「けれども、それなら」

「んー?」

「どう在る事が、貴女の理想の愛だと?」

「押し付け合いじゃなくって、分け合えばいいのよ。」

「は?」

「人一人が抱えられる問題なんて高が知れてるでしょ。
 自分で手一杯の時に人様の面倒なんて見られますかっての。」

「・・・・・。」

「でも、自分の光と闇を相手に半分渡せば
 自分も、相手の光と闇を受け入れられるでしょ。」


押し付け合わなくたって愛は成立するわ、と


「口で言うだけ簡単ですね、」

「だから理想なんじゃない。」

「実際の人間は簡単じゃありませんよ」

「だから人間なんでしょ?」


そんなものよ、人なんて。


理想は単純で簡単で、言うだけタダの安いもの


「だから言うだけ言ってはみるけどね
 あくまで理想ってだけだから、あんま気にしないの。
 そうだったら良いなとは思うけど、やっぱり難しいから
 好きなように好きでいて、好きなように恋してる。
 それでも結構、楽しいからね」

「恋――してるんですか?」

「・・・・・。」


思わず尋ねた言葉に、は一瞬嫌そうな顔をしたけれど

すぐに身を乗り出して、いつもの勝気な笑みを浮かべた


「一応ね、ムカつく位に好きなのよ?骸」

「たまには態度でも示して欲しいですがね、」

「これでも精一杯の愛情表現なんだけどね」


言ったは、ほんの少し困った笑みで


一瞬、掠めるように触れた唇に、再び此方から口付ける


最初は僅かに戸惑うような仕草を見せた
浅い口付けを暫く続ければ諦めたのか、ただ静かに受け入れる


やがて離された口付けが、ほんの少し寂しかったりしたのは
きっと自分だけじゃないのだろうと


見上げてくる少女を見て思う


「―――、そろそろベッドにでも―――」

「そろそろも何も真昼間でしょうが」


調子に乗るな、と

手にした雑誌で再び叩かれた頭は

今度は結構痛かった。


「それなら、もう一度だけ」

「んー?」

「キスくらいなら、構わないでしょう?」

「――――まあ、ね」


それくらいなら、許してあげるか。

言っては、ほんの少し笑って見せた









で言うほど簡単じゃない
それでも言いたくなるのが理想なんだから、仕方ないでしょ





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