あの時の私は、どうしようもない強がりだった


中学時代のあの頃は
もう中には付き合い始めるクラスメートもチラホラ見えて


同じ制服の男の子と、女の子


時には見知った顔の彼らが


手を繋いで帰る後姿を見送った



―― 羨ましく、ないよ



何回も繰り返して、顔を背ける。


私は彼の斜め後ろを歩いた。


あの学校の制服で、
彼の手の平は宙ぶらりんと風に彷徨っていて


触れて、その手を捕まえたら
彼にとっての自分の存在意義がなくなってしまうんじゃないかと。


そんな訳も分からない感情に、怯えて。



―― 何?


―― ・・・・・なんでも・・・


―― なら、その不服そうな顔、止めてくれる


―― ・・・・・・・・・うん。


―― ・・・行くよ。



また一つ、見知った顔の男女が通り過ぎる



寒い季節の中、お互いを暖め合うみたいに繋いだ手の平。



「羨ましく、ないよ。」



馬鹿みたいに、繰り返した。




「―――何?」




そっと握った彼の手に、
彼は怪訝そうに自分を見下ろす。


私は口元に笑みを浮かべながら、
寒い季節の中、彼の冷えた手を温めるみたいに、触れる。



「ん、なんとなく。」



返した言葉に、彼は眉間に皺を刻んだ。



「――あの日から私、少しは成長したかなって。」



捕まえた手の平は、北風に煽られてやっぱり冷たい。


それでも、触れた手の平の感触が
どうしようもなく安心に包まれるから


大きな手の平を、そのまま自分の元に捕らえたまま。



彼は、笑った。


あの日から大人びた


けれども、あの日と変わらない笑みで。


「さあ、どうだろね」


言いながら、それでも少し強いくらいの力で
握り返してくれた手の平が、言わずとも肯定してくれてる気がして。



一組



懐かしい制服を着た男女が、横を通り過ぎた。



当たり前みたいに手を繋いで、笑いあう2人に



―― 羨ましく、ないよ



今度は強がりじゃなく、言える。



「・・・・行くよ。」



小さく、繋いだ手を引いて、言う。



「うん。」



頷いて、彼の冷たい手を繋いで、隣を歩く。



当然みたいに、彼の隣を。



木枯らしが吹いて、冬の道を無色に変える。



そろそろ雪が降るかもな、なんて
重たい雲の覆う空を見上げながら、思った。




それは冬が見せた
だったかもしれない





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