誰も居ない屋上の真ん中。

大の字になって寝転がる。

空の高い所を、薄柔らかな雲が陣取る。

良い秋晴れ。今日も快晴だ。


肌を撫でる風は、もう限りなく冬の物だけれども―・・・


「あー・・平和だねぇ。」

「・・・何だそら。」



うーん・・と、人の陰質さに触れて疲れた心を天日干し。

湿気も抜けて、少しふかふかになるかしら。



「あー・・死ぬなら陰気くさい雨の日よりも、
 こんな天気の日がいいなぁ」

「はぁ?」

「んで畳の上で大往生すんの。」

「・・・何処ぞのジジィがテメェは・・・。」



呆れた様に隣に座る獄寺が言う。

はからからと笑って。


「ざんねーん。私がなるのはババァですー。」

「・・・訂正箇所はそこかよ・・・」


やっぱり、獄寺の呆れた声に「まーね」と返せば尚々溜め息。

やっぱりの笑い声で、溜め息と笑い声のローテーション。


晴れた秋空に突き抜けて消えていく。


「人の死に方にケチ付けるなよぅ。
 そういう獄寺はどうなのよ?」


「ぁあ?」


「んー・・・理想の死に方・・って言うの?」


小首を傾げて問いかける。

獄寺はソッポを向いて、当然とでも言いたげに言った。


「俺が果てるのは、十代目をお守りする時だけだ。」


「・・・忠誠誓った男よりも、惚れた女の為に死になさいよ・・・」


「てめーは守られるタマじゃねぇだろうが。」


「あら、私に惚れてんの?獄寺。」



ニヤニヤ笑いで言ってやる。

獄寺はグっと言葉に詰まった。


それから赤い顔で睨んで、
誤魔化すみたいに少し乱暴な仕草で頭を掻き乱す。


そんな様子に笑えば、彼は不機嫌だ。



「冗談よー。怒んないでってぇ。
 獄寺が私に惚れてんのなんかとーっくに知ってるから。」


「・・・るせーよ。」


「たまには素直に認めなさいよー。」



からかうように言えば、余計に赤くなった。


あー、おもしろい。


そんなの心中を察したのか、獄寺が睨みつけるのを
かわすようにして、「まあアレだ、」と、改めるような声音で言って
ニッと微笑って見せた


「死ぬ時くらい格好良く逝きたい・・・ね。」


「・・・畳で大往生が格好良いのか、てめぇは・・・」


「自らの人生をやり遂げて苦楽を乗り越えた果てに
 安らかに召される・・・ちょー格好良いじゃないのよ。」


その言葉に、獄寺のついた溜め息。

笑い声は、続かない。


獄寺は、おもむろに煙草を取り出して、火を付けた。


鼻先を掠める、煙草の臭い。


一瞬の間の後、何となく空を仰いで。



「・・・生きてる内にそんな事言ってる時点で、既にダセーよ。」



「そりゃそうだ」と、呟くようにが笑う。

同じようにして空を仰いだ。


本日晴天。


突き抜けるような秋晴れに、たなびくような白煙が一つ。


召されるように、静かに静かに昇っていった。










此れはもしものおだけど
死んだ後の事は、死んだ後に考えたって遅くは無いさ









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