遠退く 近づく 遠退く


いつでもどうせ


追いかけっこに似てるんだ







いついた
い抜かれた








空が青い。

雲は流れる。

当たり前の様に時間ばかりは過ぎ、
数分前に出来上がった飛行機雲が、だらしなく形を崩して溶ける。


穏やかな空を見上げていると、眠気が襲う。


「・・・・何用じゃ、獄寺」


唐突に振り返ると、奴は驚いた顔をした。



「ゲッ・・・なんでわかったんだよ」


「甘い甘い。風上から来たら、
 煙草の匂いがするでしょ?」


「・・・・禁煙、何日目だ?」


「3日目。もー駄目」


ヘビースモーカーな自分が3日も煙草断ち。
それでも良く頑張った方だと褒めてやりたい。

とにかく、煙草の臭いに敏感で、イライラ頂点な頃合だ。


「ぅー・・・ヤニが私を呼んでいるー・・」


「お前がヤニを欲してるんだろうが」


「なんでも良いー。ねー、ちょっと一本おくれ」


「・・・なんで俺が」


「金持ちがケチケチすんなぃ」


口を尖らせるに、獄寺が溜息をつく。


「ぜってぇやらねぇ」


「ケーチー。ケチ寺ー」


「テメェな・・・・」

煙草を噛みしめて、手は今にもダイナマイトに伸びそうで。

それでも押さえるのは、相手がだから。

惚れた女の弱みとは、情けない。


「つーか10代目はどうしたよ?
 獄寺の大事な10代目は」


ヤケに突っかかるなコラ。

思ったことは押し留めて。


「休みらしいぜ。
 俺ももう帰る。」


「えーっ。つまらん」


「てめぇもサボってんじゃねーかッ!!」


いくら自分がマジメに教室で授業を受けていても、
当の本人が屋上でサボっていては意味が無い。


「じゃー私も帰るー」


そうゆう理屈か。


「ね、一緒に帰ろ?」


溜息で吐きかけた息を飲み込む。

上目遣いに、微笑みに、その台詞は、反則だ。


本当に、惚れた女の弱み。情けない・・・



「・・・・っだったら、早く荷物持って来いよッ!!」



半ばヤケに、赤くなった顔を隠すように踵を返す。
ヨシッ!とガッツポーズを決めている後ろのアイツが憎らしい。


「あ。」


「ンだよ」


「でも、ちょっと一服」


「はぁ?お前、禁煙中で煙草持ってないんじゃ―・・・・」


言葉と共に、口が寂しくなる。

目の前の彼女は、ひょいと、今まで自分の吸っていた煙草を取り上げて、
嬉しそうに肺一杯に吸い込んでいた。


煙が肺を満たす感覚が嬉しいのか、満面の笑みだ。



「なっ―――・・・・」


言葉を失った獄寺に、はニッと笑った。



「ヤニと獄寺が、私を呼んでいたのだよ」


「――――テメェが勝手に欲してただけだろーがッ!!!!」



力いっぱいに怒鳴って、青空に声が木霊する。

彼女の行動に、一々赤くなる自分の顔が恨めしい。


惚れた女の弱みなんて、情けなさすぎる。


改めて実感するのもまた、情けない。


笑うは、きっとこっちの反応を楽しんでいる。


彼女には本当に、一生勝てそうに無い。


追いついた所で、どうせまた、
追い抜かれるだけ、なんだろう。



途方に暮れた様に、空を見上げた。

飛行機雲は、だらしなく青空に解けて、彼女の笑い声だけが、高々と響いた。




                        ― fin...




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