夢にさえ 君を魅る

幻さえも 心奪う

君は僕を支配する―…





ちっぽけな の、出来る事





幼馴染を好きになる、なんて、よくある話だと思う。

自分も例外ではなく、小学校からずっと同じクラス、なんて言う
腐れ縁の彼女に、相当惚れ込んでいる。



”惚れる”とは、少し違うだろうか



彼女は自分と違って格好良くて、運動も出来て、勉強だって、
人並みには出来るから、それは一種、憧れなのかもしれない。



けれども、彼女が笑う度に心が疼くのは、憧れだけでは
言い表せない感情である、というのは、確かだと思う。




「はあぁ…またやっちゃったよ…」




一人シャーペンを握って、深いため息を吐く。
目の前には、大きく”0”の付いたテストと、真っ白なノート。



いつもの事ながら、数学のテストでゼロを取って、いやーな教師が
皆に点をバラし、ヒドイ有様だ。



けれども、罰課題がテスト直しだけって辺りが、
多少せめてもの救いになると思う。
とは言え、先ほどからにらめっこの状態。



リボーンの差し金で、頼みの綱の獄寺はお手伝いを禁止され、
課題仲間の山本は部活。
「たまには自分でやってみろ」と、リボーンに放り出された。




にも、笑われたな…」





ポツリと呟く。
夕日の入る教室は、誰もいなくて静かだ。


昔から自分を助けてくれた幼馴染は格好良くて、
自分なんか到底及ばなくて、こんな風にダメライフを笑われることなんか、
正直、少ないことのわけではない。


それでも―・・・


「慣れないなぁ・・やっぱり。」


「うん。そりゃ、課題慣れはいかんでしょう。」


「そりゃぁ・・・
 ・・・・・!?どっから出たの!!?」


「出入り口から」


何当たり前な事を・・・と呆れたように言う突然沸いた彼女は、
気にした様子も無くノートを覗き込む。


うわぁ!?と、慌てて隠そうとするけれど、
全てにおいて勝る彼女を相手に、それは無理な話だった。


「うわっ、真っ白じゃん。
 アンタ、2時間何やってたの・・・」

「え、えー・・・っと・・・・」

「大方、全然わかんなくて放ったんでしょ。」

「・・・・当たり。」



言い返す言葉も無い。
数字の羅列に嫌気が射してボーっとしてた。

長い付き合いだ。
お見通し、とでも言うのだろうか。


は息を吐いて、ツナの前の席の椅子を引っ張り出すと、
クルリと方向転換をして、豪快に座った。




「ほれ、ちゃっちゃと終わらせるよ。」


「えぇっ!?でも・・・」



リボーンが・・・と続けようとしても、彼女は勝手に人の筆箱から
一本シャーペンを取り出して、問題を解くことに専念してる。


しょうがないか・・・と息をついた。


「なんかさ、」

「ん?」

「久しぶりだよな、こうやって、に教えてもらうの」


夕日が彼女を照らしている。
細い指の動きを濃い影が繊細に写し取り、そんな動きを見つめながら呟いた。


「そーだねぇ。最近は獄寺が教えてくれてたし、
 あの赤ちゃん家庭教師もいたし」


出番は無かったわ、とは笑う。
少し寂しそうに見えたのは、黄昏時の秋のせいか・・・


「ほんと、進展無いなーって思うよ。ダメダメで周りに迷惑
 掛けっ放しだし、いつまで経ってもダメツナでぇ"!!?」


出来る限りいつもと同じカッコイイ彼女に戻って欲しくて、
ハハハっと苦笑していったら、バツン!とデコピンされた。

さり気にクリティカルで入って、地味に痛い。
ジンジンするデコを押さえて、を見る。


「何すんのっ!!」


「アホか。」


怒鳴ったら、静かな声で返された。
その言い様に、思わずグッと息詰る。


見つめた先のは、呆れたような表情で、
その瞳は、夕日を映して不思議な色だった。


「良いんだよ、ツナはツナのまんまで」


「え・・・・・」


「変わらないままで良いよ。
 ダメなら、私が守ってあげるから。」


?」

「・・・ツナはそのまんまで良いんだって。
 口ばっかりで、ダメダメで、
 だけど・・・・・すっごく優しくて、暖かいツナで」


そう、顔を上げずに言った彼女は、表情すら変えずに
数式を解いている。


よく分からないけれど、胸が高鳴った。
彼女の気持ちを、こんな風にして聞いたのは初めてで、


やっぱり此れは、憧れなんかではないのだと・・・・.


そんな風に、恥もせずに口に出来る彼女は、
自分なんか及ばないくらいに、格好良くて、


やっぱり此れは、一種憧れなのだと・・・・・・




「だから、自分でダメとか言わないコト。
 本当に困ったことがあった時には、ちゃんと言うコト。
 いい?破ったらデコピン、頭が割れるまでやってやるからね?」


「・・・・・うん」




貴女が哀しそうな顔をしないのであれば、
そんな約束、いくらでも。


「ま、最近のツナは悔しいくらいにカッコイイから。
 ・・・・たまには、私が頼るコトだって、あるかもだけど・・・・」


そう言った彼女は、今まで見たどの彼女よりも
ずっと子供らしくて、ずっと近い存在で。


彼女の事ならなんでも知っている気でいたのに、
自分はまた、ハジメテの彼女を此処で見つけた。



「俺に出来ることなんて、限られてるけどさ。」



そんな発見が嬉しくて、頬を掻いて笑って見せた。
困ったように笑った彼女に抱いた感情は、憧れではないと、
今までよりずっと強く感じた。



いつも守られてばかりの自分は、周りに迷惑ばかり掛けて

ずっと一緒に居た彼女には、いつも助けられてばかりで


自分はずっと『ダメ』なまま



でも、これからはきっと、それだけじゃない



少しでも、隣を歩けるはずだから。



ちっぽけな自分の、出来ることは―・・・・




「ハイ、此処の方程式解きなさい」


「ワ、ワカリマセン・・・・・」



一先ず、目の前にある
この数学の難題を終わらせること。



出来ることから、一歩ずつ・・・・・・




                 ― fin...










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