夜中にフと、目が覚めて


外を見たら、雪が降っていて


白に包まれる街が、とても綺麗で


窓を開けたら、切れそうなほど冷たい風


それと一緒に、流れ込んできた歌声


視界を巡らせれば、歌声の主はすぐそこにいて




ああまったく




そんな寒そうな格好で、何をやっているのだか


距離のあるこの場所からでも


彼女の息が白く染まって


肩が小刻みに震えているのが、分かる


知らん顔を決め込もうにも


そこまで酷くもなれなくて


結局厚手の毛布片手に部屋を出た自分は


周りの人間に感化されすぎだ、と思う。


お人よしは、うつるらしい。


外に出たら、震えるほどに寒くて


見上げた空は、星が瞬いていて


ああ綺麗だと、素直に思う。


歌声の止まった背中に毛布をかけたら


盛大に跳ね上がって自分を振り返った


その彼女の表情といったら、滑稽で




「ジェイ?」


「風邪引いても知りませんよ?」


「――そう言いながら、毛布掛けてくれるんだ。」


「風邪より達の悪いものをうつされましたかね」




笑って言う


彼女も、笑って


何してたんです?なんて聞けば


星が綺麗だなーって、とは答える


ああそうですか、と彼女の隣に腰掛けて




「ねージェイ」


「はい?」


「死んだ人が星になるって、本当だと思う?」


「は?」




ああしまった、自分の分の毛布が無かった


思いながら話を聞いていたら、思いがけない質問に


我ながら、あげたのは間の抜けた声だと思う。


白い息が、棚引き消える。




「出会いと別れは同じ数のはずなのにね」


「・・・・・・・。」


「どうして、別れのほうが多く感じちゃうんだろう」




そんな短いやり取りで、彼女の考えている事が何となく分かってしまう。




「・・・・グリューネさんの事ですか?」




問いかけに答えは返らない


けれどもそれが、肯定だった


ああまったく


あの暖かい笑みの女性を思って


この寒空の下、何をしているのだか


出会いがあるから、別れはあって


出会わなければ、別れも無くて


それなら出会いと別れは、等しく訪れて


訪れる数も、平等で


――それなのに、別れの方が多く感じる




「別れの方が、悲しいからじゃないですか?」




そんな答えを返した自分に


彼女は意外そうな顔をした




「・・・・・何ですか」


「・・・本当に風邪以上に達の悪いもの貰っちゃったんだね・・・・」


「ええ、おかげ様で」




誰のせいだと思ってます?


やだな、私だけのせいじゃないでしょ?


彼女の、笑い声




「哀しくない別れをすれば、こんなに苦しくなかったかな?」


「・・・・ぼくに、聞かないで下さいよ」




星が、瞬いた


雪が、落ちてくる


まるで、星が重さに耐えられなくなったみたいだ


あの星に触れたら、冷たいのだろうか


熱で溶けてしまうかもしれない


そんな馬鹿な想像で、空を見上げる


ファサリ


肩に布の重みが乗った




「これで、もう少し付き合ってくれる?」




彼女に渡した毛布を、半分こに




「その泣きそう顔を止めてくれるなら。」




答えたら、彼女は頷きながら


そっと、肩にもたれた




「哀しくない別れだったら・・・・」




冷たい空気に、自分の声が響く




「ぼく達は、あの人の事を忘れてしまうかもしれない」




だって人間は、忘れていく生き物だから


例え彼女の事であろうとも


時が経って


ずーっと経って


気付いた時には、忘れてしまう時が来る




「ばかだね、にんげんは」




こんなに、こんなに哀しいのに――・・・・




星が、空から落ちてくる


手の平に触れたら、ゆっくり溶けて、消えていった


こんな風にぼくたちも


いつかは消えていくのだろうか


ゆっくりと、ゆっくりと




―― そうだとしたら、なんて哀しい




せめて自分は、覚えていたいと


忘れられることは、哀しいから


自分は覚えていたいと思った。


彼女の笑みとか


今こうして同じ時を過ごした事とか


寄せ合った肌の暖かさと、触れた雪の冷たさとか


手の平に収まるだけ


この小さな手の平に収まるだけでも


覚えていたいと――




「ああ、まったく」


「どうしたの?」


「馬鹿に付ける薬がない事を恨みますよ」


「は?」




怪訝そうな顔をした彼女に向けて


少し情けないような、


そんな笑みを、返した。



変わったぼくは、ずっとこのまま


たくさんの人にうつされた


たくさんのタチが悪い、けれども嫌じゃないぼくは


ずっと変わらずに、このままなんだろう






そんな僕等を、鼻でった

(変わってみたり、さよならしたり、)
(泣いて、笑って、寄り添いあって)
(なんて愚かで忙しい生き物だろう)
(だけどそんなぼく達を、)
(ぼくは心から誇りに思う)




(嗚呼僕はこんなに毒された)



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