月が煌々と輝く。

星の光はその輝きに負けて、今にも消えそうな程に儚かった。

カタンと窓を開けば、北風が細く入り込む。

の横を通り抜け、お風呂上りの為に解いていたジェイの髪が
さらりと風に遊ばれた。

背後のジェイは僅かに身震いしてを睨み、
は苦笑して窓を閉める。


乾いた冬の夜風とシャンプーの甘い香りとが、部屋の中を占めていた。


「・・・よくさ、やれば出来るなんて言うけどね。」


「また随分と唐突ですね。」


ポツリと言うに、ジェイが呆れた声を出して。

けれども、髪を緩く首元で縛る動作を終えると、
「何ですか?」と、聞く姿勢を示してくれた。


その事に、少なからず嬉しそうにが笑んで、
再び、窓の外の星を見上げた。


「やれば出来るとか、努力は報われるなんて、よく言った言葉だけど、
 そんなの、ただの嘘っぱちでさ。
 どんなにやっても出来ない事なんかたくさんあるし、どんなに頑張っても
 努力が報われない事なんかザラじゃない。」


「人には限りがありますからね。
 そんな事があっても、まあ当然です。」


「うん。ただ、やらなくちゃ、出来るかもしれないことも出来なくて、
 頑張らなくちゃ、届くはずの物にすら届かなくなる。
 可能性を自分で摘み取る事がどれだけ愚かな事か知ってるから・・・」


言って、そっと冷たい窓に触れる。

それはまるで、届かぬ星に手を伸ばす気分で、
甘く焦がれる気持ちと、待ち受ける結果に対する焦燥とが同居する。


「それでも叶えたい事が在るから、人は星なんかに願うんだろうね。」


星が何かを叶えてくれるわけがない。

祈りは叶えられた例がないのだから。

それでもあんなものに縋りたい程、人の望みは貪欲だ。


「ねえジェイ。」

「何です?」

「あんな儚い星でも、偶には願いを叶えてくれたり、すんのかな?」

「何かに願わなければならない程の願いでも、あるんですか?」


問われたは「まあね」と答えて。

そっと手を組み星に祈る。


「・・・望みはいつでも強欲で、祈りはいつでも空虚です。」


一体貴女は、何を願うんですか?


尋ねるジェイに、は笑う。


「口に出した祈りは、祈りですらないただの幻だよ、ジェイ」


「幻がリアルを孕む事も、少なくは無い事象でしょう。」


「幻が孕んだリアルも、結局はただの幻だけれどね。」


言えば、ジェイは僅かに睨んだ。

真っ直ぐなその視線を受止めて、は言う。


「そんなに怖い顔しないでよ」と、少し肩を竦めながら。


「ごめん、本当は何も無いんだよ、願いたい事なんて。」

「何なんです?一体。」

「今の生活で満足していないわけじゃないんだけれども、
 やっぱりどうしても叶えたい事もあって。
 でもまだ、私にはこの感情を何て表現したらいいか解らないから。」


曖昧でぼやけた感情。

けれども其れは、あくまでも祈りでしかなくて、
漠然とした強欲の感情に、少しだけ混ざる、偽善にも似た温かな感情。


此れを、この世界の一体どんな素敵な言葉が、ぴたりと当て嵌めてくれる事だろう。


こんな感情でも、星は聞き届けるのだろうか。


『願い』として、嗚呼全く以って愚かであると、嗤ってくれるだろうか。


「ねえ、ジェイ。」


「はい?」


「キス、して?」


「・・・。」


「きっとこの感情に名前を付けるのは、
 それからでも遅くはないと思うから。」


祈りが幻になる前に、この甘くもどかしい気持ちに名前をつけて

あの星へ、願わなくちゃ。







W i s h  o n  a  s t a r
星に願いを託した所で、結局は自分次第なのだけれども、









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