春風に誘われて
Ver,雲雀












「ねえ雲雀。私もさ、一応ちょっとはお年頃な訳なのよ。」


「へえ。」




唐突にそんな会話になったのは、
別に何も思うところがなく、と言うわけではなくて


自分的には、唐突と言うつもりもなかった。



今日は、一応平日だけれども、祝日と言う括りな訳で
この学校も、カレンダーに則って休みのはずだった。


のに、相変わらずこの風紀委員はそんな事を気にしない。


自分はいつも通り、応接室に押し込められながら
風紀の仕事をこなしていた。


相変わらず雲雀は、余り手伝う気配を見せない。


たまに書類に目を通しては、
欠伸をかまして暇そうにしていた。


ちったぁその暇分けやがれ、とか、思わないでもない、が。



開け放たれた窓からは、風がそよぐ。



窓の端では鮮やかな若葉が揺れて、
桜とはまた違った形で春を主張していた。


ここ数日で急激に上がった温度に
快晴と祝日が重なれば、幾ら自分でも心浮き立つ。



「はぁ・・・・たまには遊びに行きたい・・・・」


「何、僕の前で群れたいって言ってるの?」


「群れなくたって遊びには行けるでしょーよ。
 散歩とかでも良いし・・・・・」



とりあえずリフレッシュしたい。

嘆くように言ったのに、雲雀のお答えはと言うと

「当たり前だろ。
 僕の前でそんな事言ったら咬み殺してるよ」と少し明後日の方向だった。



そんな彼に、溜息を返す。


そこで下手な返答をすると、
会話がエンドレスループの罠に嵌ってしまう。



が、やっぱりたまには遊びに行きたいのが本音で
フとした拍子とは言え『籠の鳥』何て単語が浮かんでしまった自分に
我ながら相当参ってるなぁと思ってしまう。


五月病なんて言う物もある位だ、
あんまり根詰めさせなくたって良いじゃん、とか。


雲雀は相変わらずの欠伸返答だ。


コノヤロウ。


それから暫くして
フと思い出したかのように雲雀は、目を通していた書類を
適当に机に置きながら、言った。




「そう言えば、今日はそこの神社で小さい縁日があるそうだ。」


「へぇー。」



どうせ関係のない事だ、と生返事。


行けない行事の事よりも、
今目の前の仕事に、どれだけ早く蹴りを付けるかの方が重大なのだ。



けれど・・・・・・



「並盛の風紀を乱さない為に、
 これから巡回に行くけど、一緒に来るかい?」


「行く!!!」



ガタン!と立ち上がって言った自分は
我ながら恥かしいほどの即答ぶりで。



雲雀は口元を微かに湾曲させながら
「仕事の効率が落ちてるからね」と付け加え。



「その代わり、明日は今日以上に仕事してもらうよ。」


「え"・・・・っ明日もあんの・・・・?」


「何か文句でも?」


「・・・・・いや、まあ、いいや・・・・・」




とりあえず、この日差しの下に出られるなら良いか、と
春風に髪を任せながら思った自分は


次の日の丁度その頃、雲雀の事を恨む事になるのだけれど・・・・




(鬼!!幾らなんでも量多すぎるってば!!!)
(昨日放棄した分と、今日の分。自業自得だろう?)
(うぅ・・・・・)
(・・・・・半分貸しなよ。)
(へ?あ・・・ありがと・・・・?)


(ゆっくりと、ゆっくりと)
(春風に心が解かれていくような錯覚に陥った)



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