春風に誘われて
Ver,ジェイ









春の日差しが降り注ぐ中


桜はすっかりと散り終えてしまったけれども、
代わりに新緑が映える並木道で


普段なら村の中で買い物を済ますのだけれど
折角こんなに暖かくて良い天気なのだから、と
半ば強引に、ジェイを外へと連れ出した。


まったく以って、この人は


セネルやらウィルやらに用事がないと、
何日だって、あのモフモフの村で、みんなと一緒に引き篭もってしまう。


そんなんだから、肌の色がそんなに不健康なんだよ、と
心の中で毒づきながら。



それでも、陽の日差しを体全体で受け止めて目を細めるジェイは
満更でもなさそうだから


まあ、無理矢理という形だったから嫌な顔をされたけれど・・・・


いいか、とか、思ってしまう。


「何かさー、」

「はい?」

「こうしてると、デートしてるみたいだよね。」



ジェイは、何にも無いところで蹴っ躓いた。


転びはしなかったものの、珍しいジェイの反応に
目をパチクリと瞬かせれば、ジェイは赤い顔でものすごーーー・・・く、嫌そうな顔をした。



「いや、分かったよ、悪かったって。」



そこまで嫌そうな顔されたら流石に傷つくよ、と


ジェイは、貴女が馬鹿なことを言うからでしょう、と溜息をついた。



そんなに馬鹿言ったかなー、と頭を掻けば、
再度溜息の返答が返って来て


ああ分かったよ、悪かったって。


それにしても、だ。



「良い天気だよね。」


「また話が飛びますね、貴女は。」


「まあまあ、」



いいじゃん、そんな細かいこと気にしないでよ、と手を振って。



高く、淡い色をした空を見上げる。


掠れた様な形の雲が、割と速い速度で流れていった。



その雲を、視線で追いながら。



「ねえジェイ。」


「はい?」


「デートついでにさ、買い物終ったら輝きの泉の方行ってみない?」


「・・・・・いつからデートになったんですか、これは・・・・」



やっぱり、ものすごー・・・っく嫌そうな顔をされた


けれど。



「まあ、天気も良いですからね。」

「うん。」



その、彼にしては珍しく素直な返答に
ああやっぱり、外に連れ出してよかったな、と


春の風に吹かれながら、思った。



(モフモフの皆も、と言おうとして)
(けれどもやっぱり、止めておいた)
(たまには2人きりのこんな時間、あっても良いかなって)
(ジェイも何も言わなかったから)
(私はその気遣いに、甘える事にしておいた)


(口には出さなかった本音を)
(春風に繋がれたような気がして)








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