春風に誘われて
Ver,KAITO










世に言うゴールデンウィークと言う長期休暇で



いっそ暑いくらいの陽気に、自然心は浮き立つわけだが、
特別用事と言うものは入っていなかった。


昨日は遊びに忙しく、そしてまた明日も遊びに忙しいわけだが
今日はぽっかりと予定が無い。


そこを狙うかのような快晴な訳だけれども
それを理由に何か予定を入れるか、と言うと別にそういうわけでもない。


当初の予定通り、今日はゴロゴロと過ごしていて
開けた窓から、心地良い風が入り込む。


それだけでも、何となく有意義な時間を過せている様な気がした。


実際にはただだらしなーく時間を過しているだけなのだが、
そこに『快晴』『気持ち良い風』とかが入り込むと、不思議とそんな気持ちになるのだ。



フと、隣の部屋からカイトの歌声が流れてきた。



ベッドの上で仰向けになり、白い天井を見つめていた瞳を、ゆっくり閉じる。



今日は兄貴も珍しく家にいて、
昼間から歌の練習でもしようか、と話していた。


そして、その歌の練習が始まったらしいが・・・・



「あー・・・・これヤバイ。」



春風は甘く心地良い温度で部屋を巡り


使い慣れたベッドは、少しクタっとしていて肌に馴染む。


耳に穏やかに入り込むのは、
最近では聞き慣れてきた、カイトの低く響く声。



丁寧に音を撫で上げるその声が、不思議と心を安らげて
ウトウトと、眠りの淵へと誘って行く。



カイトの歌声に包まれながら、
そのまま、穏やかに沈んでいく眠りに身を任せて




――― 夢の中で、大きくて暖かい手の平に、頭を撫でられた気がして



その日の眠りは、何だかとても気持ち良かった





(ねえ、カイト。私が寝てる時、頭撫でた?)
(さあ、どうでしょうね?)
(む。なぁに、それー)(そういう事言うとアイス抜きにしてやるんだから。)
(ええっ!!?そ、それは酷いですよぅ!!)

(そんないつも通りのやり取りをすり抜ける春風が)
(いつもよりずっと心地良いと感じた)


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