春風に誘われて
Ver,ラビ









別に謀ったとかでもなくて


たまたま任務も無くて時間が出来たから、
それじゃあちょっと本でも読もうか、と談話室の本棚を見に行って

お気に入りの続き物の新刊が入っていたから、
ちょっとソファに腰掛けて、物語の導入を読んでいた、と言うだけで。



「珍しいな、がここに一人でいんのも。」

「そう?結構着てるんだけどな、私。」



ラビと鉢合わせたのは、完全に偶然だ。

先にも彼に言った通り、自分は何だかんだで
よく此処に訪れているし、読書が趣味だと言う彼も
やはり此処に良く来ている。


ここで鉢合わせたのはあくまで偶然だが、
それもまあ、ある意味必然のようなものと言えるだろう。


開け放った窓から、心地良い風が入り込む。


古い紙の匂いが、春の柔らかな香りと混ざって
不思議と心が落ち着く空間が出来上がっていた。



「隣、良いさ?」

「どうぞ。ラビも読書しに来たの?」

「まあな。資料とかなら部屋で見るんだけど
 こうゆうストーリー仕立てのは、此処で見る事にしてるんさ。」



なんか落ち着くっしょ?と言うラビは
恐らく自分と殆ど同じような理由なのだろう。



この談話室には、資料室のように小難しい専門的な本は無いが、
絵本とか、ちょっとした小説とかが置いてある。


自分の場合専門書なんて興味は無いから、
自分が本を読むために足を向けるのは、必然的に此処になるわけだが


ぶっちゃけ、そんな雑談だのしている暇があるなら
休息をとるか、普段は出来ない趣味をするか


前者を選択する者が多いこの場所で、
この談話室に足を運ぶ人間は、そう多くは無い。


けれどもくつろげる様作られているから、
ここは人気が少なく、そして、とても居心地のいい空間だった。


特に、
外に出るわけではなくとも、こうして天気のいい日。


入り込んでくる風の香りに季節を楽しみながら、
ゆったりと読書に興じることが出来る。


あとは、ジェリーに淹れて貰った紅茶に口を付けたりしながら。


たまに、ちょっとしたお菓子も付けて。


隣に腰を下ろしたラビは、手に持っていた本をおもむろに捲り、
それを確認して、特に話すでもなくも、再び本の導入に目を落とす。



ゆったり、ゆったりと



時間が流れる中で、紅茶の湯気が柔く棚引く。



紙の擦れる音と、隣で微かに感じる体温。



春の風がふわりと舞い込んで来た室内は、暖かい。



暫くして



肩に寄り添う重みが触れて、は微かに笑みを零した。



「おやすみ、ラビ。」



(目が覚めて、少し悔しそうにする君の顔が浮かんだけれど)
(余りにも気の抜けたような顔で寝てるから)
(少しだけ、眠らせてあげようと思ったんだ)

(穏やかな時の流れる、春風の一部みたいに)
(君の寝息が、耳を擽った)



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