「これからよろしくね」と、視線が近くで交わる先で言ったら


「何か、さりげなくお前には敵いそうにない」なんて、返された。








季節外れの四月馬鹿











夕暮れが辺りを包み込む頃。


放課後の教室は、面白い程に人がいなくて。



日直と言う面倒ごとを終わらせた後、
雑談に興じる事に移った自分達以外に人の姿は見られない。


学校全体がシン・・・っとしている。


少なくとも、今この階に人はいないのだろうな、と思うと
いつも賑わうこの場所で、不思議な感じがした。


「それで、新入部員入りそう?」

「そうさなぁー。一応何人か見学には来てっけど・・・・・」


どういう経緯でそうなったのだかは忘れたが、
いつの間にやら流れは部活動の話へと変わり、帰宅部の自分は聞き役にいる。


入部して何人残るかは分からない、というラビに、
結構しんどいもんね、バスケ部、とは笑った。


季節は桜が散り終えて、緑が鮮やかになる頃合。


新しい後輩が入学してきて、そろそろと部活を決定してくる頃だ。


は?」

「・・・・・・私、帰宅部だけど。」

「そりゃそうだけど、最後の一年くらい青春してみようーとか、思わんわけ?」



因みに、今ウチ、マネージャー募集中さ、とか言うラビに
は手をヒラヒラと振って「私向いてないわ」と軽くあしらう。


「大体、どうせ数ヶ月しかいられないのに、入部してどうすんのよ。」

「んー・・・思い出作り?」

「そんなんでやられても困るでしょ?
 アンタ、一応真面目にやってるんだからさ。」


3年である自分達は、夏の大会が終了したと時点で
受験生へと強制移行させられる。

面倒だなんだと言いながらも、結局3年間バスケ部で過しきった彼は、
不真面目そうに見えて、かなり真剣に取り組んでいた。


「・・・・・よく見てんなー、お前・・・・」

「目立つからねー。」

「それだけ?」

「・・・・・何よ。」



言ったラビの言葉に、は怪訝そうな顔だった。


あまり真面目くさっているのは、自分が好きじゃない。

だから確かに、真剣に取り組んだのも事実だが、そうと見せなかった自分も事実だ。

目立つから、という理由だけでそこまで悟られてしまうのだとしたら、
自分、どれだけ目立って見られているんだ、という話だ。


・・・・・いや、でも。


目立っているか、間違いなく。



「なあ、お前さ。
 高校3年間、何か残った?」

「まあ、一応は。友達も少なくないし、イベント系は結構主体的に取り組んだし。」

「でもさ、もう一個思い出、作んない?」

「何の?マネージャーなら、断るけど。」

「んー・・・それも良いけどさ、どうせなら恋とか?」


俺らもお年頃だしー、とラビ。

はと言うと、何か、凄く嫌そうな顔。


「・・・・何さ。」

「アンタ、私がそうゆうのに縁がないこと知ってるでしょ?」


言っておくが、18年間生きていて、色恋に発展した事は1度もない。

男友達がいない訳ではないが、よく言う「良いお友達」で終わってしまう。


ラビは「そんな事ないっしょ」と、窓枠に寄り掛かった。


アンタは3年間何を見てきたんだ、と睨めば、
こそ、3年間何を見てきたんだ、と言う。


真面目が好きじゃないと言う彼なのに、何だか真面目な顔をしていたから

何か気圧される様に、グっと息を呑む。

どういう事よ、と問えば、「此処にいるっしょ?」と彼。


「は?」

「今、の目の前に。3年間に惚れてた奴が。」

「・・・・・・・・・・・ラビ?」

「そ。」

「惚れてたの?」

「うん。」

「・・・・・・今日、四月一日?」

「んー、大分前に過ぎたかな。」


頭のカレンダーを捲ってみても、四月一日はとうの昔に過ぎている。


「マジで?」と聞けば「マジで」と、マジな顔で帰ってきた。


「そんなん、私聞いてない。」

「そりゃ言わなかったもんさ。でも、今聞いたっしょ?」


そして、ニコっと、いつもの笑みを向けてくる。


「ど?もう一つの思い出作り。
 ついでにマネージャーもやってくれたら、俺としては嬉しい限り」



ホラ、彼女がマネージャーとか、青春ぽいっしょ?と

言ってる事は、良く分からないが。



予想外の事に固まったままの自分には、
いつものラビの軽口を相手してやる余裕もない。



「ま・・・・」


「ん?」


「前向きに検討してみます・・・・」


「どっち?」


「両方?」


「駄目。マネージャーは兎も角、もう一つはちゃんと答えて欲しいさ。」



そう細められた瞳は、何処か熱っぽくて。


『友人』としての彼は絶対に見せなかったその表情に、息が詰まった。


――だから、男性経験は申し訳程度にもないのだというのに。


いきなりの展開についていけないのは、自分だけなのだろうか。



「あ、のさ」


「ん?」


「こうゆう時って、何て返事したら良いの?」


「・・・・・・・・・・。」



最終的に、我ながら情けなく本人に聞くという事になってしまって
ラビは暫く固まった後、吹き出して、ポンポンと頭を撫でた。



「そさな。シンプルに行くか。」


「お、お願いします・・・・」


「俺さ、好きだったんさ。の事、3年間。」


「う、ん・・・・・」



改めて言われて、心臓が再び跳ね上がる。

余りのジャンプ力に、皮膚を突き破ってくるのではないかと思った位だ。



は?俺の事、好き?」



小首を傾げるような仕草で、覗き込まれる。

目の前には、深い灰色を落とす瞳。

フワリと揺れた癖毛がちの赤い髪が、夕日を受けてより一層色味を増す。


胸の辺りで心臓が跳ね回って、顔がどうしようもなく熱くて

落ち着きなく手を擦り合わせながら、けれど


――― 多分、



「好き・・・・カモ。」



認める以外に選択肢がない位には、
そんなラビに、今までにないくらい惹き込まれる自分を感じた。



「マジ?」と言われて、「マジ」と、マジな顔で返してみる。



ラビの表情は暫くポカンとしていて、


「今日、エイプリルフールだっけ?」


「さっきその会話、したでしょ。」


「ん、した・・・な。したさ、うん。」



そう、噛み締めるように幾度か頷くと、ズルズルと窓から壁伝いにラビはしゃがみ込んで。


驚いて名を呼べば、彼はクシャリと赤髪を乱暴に掴んだ。


「ちょー緊張した・・・・・」


先ほどまで夕日で気付かなかったけれど、彼の頬も相当赤い。


ヒョイっとしゃがみ込み近付いて、彼の胸元に触れれば、
彼はギョっとしたようだったけれど、身を引くには壁が背中を塞いでいて



彼の心臓も自分と同じように、その場で煩いくらいに暴れていた。



「・・・・・・・・なんだ。」



私だけが緊張してたのかと思った。


そう言って、何だか妙に気が抜けたような気分になった自分に
ラビは何だか行き場がないような所で、手をフワフワさせながら。



「あ、のな、・・・・」

「ん?」

「もうさ、そしたら、友達じゃないんだぜ?」

「うん。」



そうだね。


なんだか、ラビの表情を見ていたら、急に落ち着いてきた自分がいる。


頷いた自分に、ラビは隠せもしない赤い顔で、
困ったように――けれども熱っぽい瞳で見つめながら。



「そしたらさ、俺、今まで我慢してた事我慢する理由がなくなるからさ、」

「うん、」

「あんまそういう事されると・・・・俺も何するか分からんから・・・・」



ちょっと、近い。


そう、さっきまでの余裕が何処に行ってしまったのかもしれない表情で
呟くように言ったラビに


は暫く固まった後、吹き出した。



「けだものー」

「ちょっソレは流石に傷つく!!」



俺3年間ちょー紳士でしたけど!!!


言ったラビは、間違いではない。



クスクス笑いながら、立ち上がり
同じようにして立ち上がった彼は、思う以上に近くて。


大きな手の平で、頬に触れられる。


友人では絶対に有り得ないその空気を、肌で感じながら――



「紳士だったし・・・良いよな?」



そう、普段の彼には似合わないような事を言って、答えも聞かずに触れた唇に


常よりもずっと熱く感じた体温は、果たしてどちらのモノだったのか――・・・・・



分からないまま、けれどそれが、心地よくて


離れた口づけに、暫くの後お互い、どちらでもなく穏やか笑みに包まれた。


季節の変化を告げる風が、夕日に熔けながら窓から入り込む。


もうすぐ、また一枚捲られるカレンダーが、
それを主張するように、ハラハラと揺れていた。



――fin.....







下書きは途中まで出来ていたのですが
星野の私生活とか個人的な事情でゴタゴタしていたら、
すっかりと遅くなってしまいました><;

本当にすみません!お待たせ致しましたみぃよ様!!!
学パロ設定は初だったので、正直書いてて楽しかったです。←
リクエストありがとうございました!!!200%の感謝を込めて捧げます!!!

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