世の中は駆け足で進んでいく。


それに遅れないように、必死に自分も駆け足をした。


あんまり得意じゃないけれど、おいてけぼりは怖いから


たまにはスキップの真似事なんかして、
気取ったフリして町を歩いた。


途中で疲れて嫌になる事くらい分かってる。


それでも駆け足は止めなかった。



駆け足よーい、どん!



一体誰が合図を出したんだろう


いつの間に?


わからないけど、立ち止まるのは怖かった。




フと立ち寄った公園に、特に意味はなかった。


ただ、昔よく遊んだなあって。


普段は子供が戯れてるから、どちらかと言うと倦厭してる。


子供が嫌いなわけじゃないけど、良い大人になった自分が
その中で浮き立つのは目に見えてる。


年を食うのは意外と厄介だ。


まだ水溜まりの残る公園。


梅雨の時期、雨はまだ上がったばかり。


午後の公園一等賞、なんて


暫く雨続きだったから、子供達もご無沙汰だろう。


きっとすぐに、やかましくなる。


雨の滴が残る遊具で、子供達も良くやるもんだ。



「あ・・・」

「え?」



誰もいないと思って、ちょっとした散歩気分で歩いてみれば、
思いがけず声はして。


振り返って、一瞬驚く。



青い髪、奇抜だ・・・



それでも後ろに立っていた優しそうな彼に
不思議と馴染む色だった。


この辺りに住んでるのかな。


ご近所だけど、知らなかった。



「こんにちは、」

「あ・・・こんにちは」



軽い会釈と共に交される挨拶。

特別な事じゃないのに、新鮮だ。



「散歩ですか?」

「あ・・・はい。」

「天気、良くなりましたもんね」

「ほんと、気持ちの良い天気になりましたね。」



晴れ間が覗いたのは一週間ぶり。

子供じゃないけど、やっぱり嬉しい。



「この辺の人ですか?」

「はい、すぐそこの・・・」

「あ、意外と近いんですね。」



俺は向こうの方なんです。

指差す方は、自分の指した方と向かい側。


なんだ、本当に近くだ。



「カイトって言います、宜しくお願いしますね、」

「あ、です。。」



宜しく、と

手を差し出すと、嬉しそうに握り返される。

思うよりも大きくて熱い手で、驚いた。



「誰もいないと思ったんですけど、」



俺以外にもいて驚きました。


カイト、

そう名乗った彼は言う。


「私も、他に人がいるとは思いませんでした。」


お互い物好きですね、

言って笑ったら、そうですね、と彼も相槌。


雨上がりの散歩も、してみるもんだ。


気まぐれもたまには悪くない。



「あっそろそろ戻らないと・・・
 マスターに内緒で出てきちゃったんですよね」


マスター?

仕事でもエスケープしてきたのか?


でも、せっかくの休日に晴れが差し込めば、気持ちも分からないでもない。


「でも、外に出てきて正解でした」

「え?」

「俺、この辺に来たばっかりなんです。
 だから、あんまり知り合いとかいなくって・・・」



だから、貴方に会えて良かったです。


ニコリと笑う。


ああなんだろう

空みたいだ、この人。



「私も、良かったです、会えて」



また何処かで会えると良いですね、

ご近所ですから、きっと会えますよ


彼はそう、微笑んだ。



「それじゃあ、俺、行きますね」

「はい、あ、マスターさんに宜しく伝えて下さいね」

「はい、伝えておきます」



言って踵を返す彼。


スラリと伸びる背筋

青い髪が、真っ直ぐに空を向いている。


彼の姿が公園の向こうに消えるまで、見送った。


遠くから、子供達の声がする。


やって来たな、やかまし共め。


さあ、自分もそろそろ、家に戻ろう。



あの人みたいに背筋を伸ばして

頭が真っ直ぐ空に届く様に



暑い季節を待ち侘びる雨



ああ、もうすぐ夏が来るんだ。



当たり前の事に気付く。



雨上がりの道を、いつもよりゆっくり歩いてみた。


当然の様に咲いていた、小路の紫陽花に気付く。


滴る雨の露がキラキラと光を弾いて輝いた。


素敵な宝石が乗ってるみたい、なんて。


乙女な馬鹿野郎も良い所。



ああ、今日は良い天気だな。



フと見上げた空に、彼の微笑みが重なった。





紫陽花憂鬱
夏が来る頃、また彼に会えたら良いな








[BGM:遠来未来]

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