「だっから、冷蔵庫にあるもんなんか食ったモン勝ちだろ!!?」

「とか言いながら私がこの間アロエヨーグルト食べたら
 2倍にして買わせたのは何処のどいつだ!!」

「それはそれ、これはこれだ!」

「ふざけんな!私のプリン!3倍返し!!」

「100円プリンでガタガタ抜かすな!!」

「違う!あれは120円!大きいやつなの!!」


時は夜も更ける頃。


目の前では相変わらず、壮絶な戦いが繰り広げられているわけで。


こんな攻防戦が続いて、早1時間。


よく飽きないな、この兄妹・・・とか、思ってしまうわけなのだけど。


それを止めようともしない自分も自分だ。


いや、って言うか止められない、が正しいんだけど。


この兄妹に割って入れとかそんな命知らずな事正直無理だ。


唯一この兄妹を止められるだろう母親も、現在お風呂に入っている所で。


ああ絶望。


「だああっ!しつこい!いい年の女が食いモンの事で騒ぐな!!」

「ちょっ今全世界の女性を敵に回す言葉だったぞ!!?」


私はまだ若い!

そして食い物の恨みは怖い!特にプリンは!!


は胸を張って主張する。


いや、プリンでそこまで怒るのも貴女だけの様な気がするんですが・・・


言えない、言えない。

心の中で呟くだけだ、あくまで。


「とにかく俺はお前と違って明日も忙しいんだ!寝る!!」

「あっこら敵前逃亡か!!情けないぞ、戦え!!」


は未だ騒ぐが、兄の方は完全に扉を閉めて、貝の口だ。


再び顔を出す気配は、ない。


「あの、マスター、部屋に戻りましょう?」

「うー・・・・」


まだ不満そうなを引っ張って、カイトは部屋へと戻る。

自室に着けば、は思いっきり、ベッドにダイブした。

空気の弾ける音とスプリングの軋む音がする。


そのベッドの端っこの方に、カイトはちょこんと腰掛ける。


は枕に顔を埋めて、うあーとか
布が音を吸うのを良い事に、思いっきり叫んだ


「私のプーリンー!!」

「あの、マスター・・・そんなに怒らなくても・・・・」

「むっ!じゃあカイトは楽しみにしてたアイスを食べられても
 何も言わずに黙ってしょうがないって済ませるのか!?」

「まさか。」


うわ、即答したよこの人。


思わず顔を引き攣らせる


だってまさか。


アイスの恨みは怖いのだ。


「あーあー、楽しみにしてたのになープリン・・・・」

「元気出してください、俺のアイス、一個あげますから。」

「ダッツの抹茶・・・・」

「うっ・・・高い方で来ましたね・・・・」


でもまあ、マスターが言うのなら、1つ位は・・・・・


もごもごと口の中で言う。


ちょっと未練があるけれど、まあ、良いか・・・しょうがない。


思ったけれども、は唐突にカラカラと笑い出し、手を振った。


「うそうそ、ゴメン、冗談だよカイト。
 くれるなら練乳苺の安い方で良いから」

「え?」

「本当にくれる気なんだもん、少し焦っちゃったじゃん」


あはは、とか。

笑っている彼女に、ぽかーんとして。


え、嘘だったの、今の。


なんて、わかりにくい・・・・


「あの、マスター?」

「んー?
 あーあ、まったく、私カイトみたいなお兄ちゃんが良かったよ」

「へ?」

「カイトがお兄ちゃんだったら、ぜーったい良かった」


しかもこんなカッコいいお兄ちゃんだぜ。


普段ありえねーだろとか思って見てる兄妹恋愛とかも有り得ちゃうかもだぜ、とか
なんか危ない方面にまで口を滑らせている

けれども自分は呆然とした感じで。


「お、お兄ちゃんですか・・・・」

「うん、あーもー、初音ミクが羨ましいぜ」

「あ、はは・・・そう、ですか?」

「そりゃあもう、って、ああそっか、カイトの方がこんな妹いらないか」


そっか、そっちの選択権ってもんがあった。

は言うけれど・・・


いや、違うんだ、そうじゃなくて・・・


「・・・・今のままで、充分ですよ」

「へ?」

「ッて言うか、今のままの方が、良いです」


まだ、マシだ、そっちの方が。


頭にクエスチョンマークが飛んでいるを置いておいて、
カイトはよいしょと立ち上がる。


「アイス、取ってきますね」

「ん?うんー、いってらっさーい」

「あ、マスター。抹茶と練乳苺、結局どっちにしますか?」

「練乳苺でよろしーですよーぅ。
 カイトの楽しみ奪ったりしないってー」


ヘラっと笑って、は手を振り見送った。

彼女の部屋から出て扉を閉めれば、暗い廊下。

ほんの少しだけ、息を吐いた。


―― お兄ちゃん、か


「軌道修正が、必要かな・・・・」


行きたいのはそっちじゃないんですよ、


どうやったら、行けるのかなあ・・・





擬似的恋愛ゲーム
(どこでルートを見誤ったのかなあ・・・)





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