「じゃ、私そろそろ帰るね。」

「あ、さん・・・!」



家を出ようとしたアイツを、カイトが引き止める。


玄関先まで送り届ける役目は、
カイトに任せることにした。


大学の友人が、自分の音楽を聴いてみたいと言うので
我が家に招いたのが、一ヶ月前ほど。


友人――は、自分の音楽を気に入ってくれたようだが



同時にカイトも、彼女の事をいたく気に入ったらしかった。



それは多分、人で言うところの『恋愛感情』という奴で



自分の事もマスターとしては好いてくれてるわけだから
恐らく彼のプログラム上も、問題は無いのだろう。


玄関の方で、2人の笑い声。


2人の仲は、今のところ良好だ。


の方も、カイトの事は悪く思ってないらしい。


の事は良い友人だと思っているし
カイトの事は、弟とか、そんな感じで思っているから


2人の仲が順調なのは、此方としても微笑ましい。


―― と、言うのは今の状況だから言えることであって


これで2人が付き合いだしたら
俺マスターでいられんのかなーとか


先走って考えてみたりもするわけだ。


パタンっと玄関の閉まる音がする。


が帰っていったのだろう。



カイトが、至極幸せそうな表情で部屋へと戻ってくる。


「よぉ、満足したか?」

「はいっ」


上機嫌な声。


今の声で、現在作曲中の歌を唄わせたら、
ちょっと良い感じかもしれない。



「あの、マスター?」

「あん?」

「マスターって、さんの事好きなんですか?」


ゴンっ!と


実際歌わせてみようと向かい合ったパソコンに
盛大に頭突きをかました。


因みに電化製品に喧嘩を売った頭の方が
現在ジンジンと痛みを伝えている。


これちょっとコブになるんじゃなかろうか。


モニターの中に入り込むかと言う程
勢い良く突っ込んだ。


「な、なんでそーなっちゃうワケ?」


見やったカイトはニッコリ顔だ。


あれ、なんかちょっと、これ危ないフラグ立ちそうな感じ?


こんなに俺コイツの事大事にしてやってんのに
なんかちょっとヤバイフラグ立っちゃってない?


「いえ、ただちょっと
 さんと話してる時のマスターって表情が違うなって」

「・・・・・安心しろ、アレはただの友人だ。」



げっそりとした表情で言えば、
カイトは「えー?」とか何とか、少し不満顔な訳で。


あー、あれだ、きっと恋した故に嫉妬心が疼いてるだけだ、とか
自分でもよく分からない説得に、「ああっなるほど・・・」なんて
納得してしまうコイツは、いつもの通りに見えるけれども。



お前とライバルなんて、誰がそんな怖いことするか



こっそり思った事は、もちろん内緒事項となるわけだ。




そんな心の内を秘めつつも、
自分は既に、新しいボーカロイド購入の算段をつけているわけで。


と付き合うような事になったら、
喜んで差し上げてしまおうとかまさかそんな・・・・


ああでも、ヤンデレ発動して
アイツ途中から学校来なくなっちゃったらどうしよう・・・・


別のところに頭を悩ませるハメになる俺が、今現在ここにいるわけで。



「マスターぁ?歌の練習しないんですか?」


「する・・・しますとも、ええ・・・・・」



エンストを起こしかけた頭を、軽く振りながら、
愛用しているパソコンに向き合った。


今はとりあえず、思考回路の逃げ場を、と思うわけだが


カイトの歌声を聴いてれば、
ああやっぱり、この歌声を手放すのは惜しいなと思うわけで。


ああヤバイ、俺が病んできちゃいそうじゃないのちょっと。


「マスター、手が止まってますよー」

「も、ちょっと待って・・・俺休憩・・・・」

「えぇっ!!?始めてまだ5分・・・・」

「カイト!冷凍庫の中にダッツのドルチェがあるぞ!!」



青い風が、俺の髪を靡いていく。


目の色変えて部屋から出て行ったカイトに、
モノで簡単に釣られるな、とか。


思いながらも、ゲッソリと、
フル稼働で少し熱を持ち始めたパソコンに凭れ掛かる。


ああもう、たった数分で何でこんなに疲れてるんだ俺は・・・



「マスターマスター」

「あー・・・はいはい。」







君はまるで、のように
(悩みをポンポン生み出しやがってコノヤロウ)
(そんな悩みの種もしらないアイツは)
(今日も能天気顔で、俺の事を呼んでくる。)


「なぁ、さっさとに告白しちゃったら?」
「なっ・・・に言ってるんですかマスターの馬鹿!!」
「はぁ・・・・」

(そっちの方が、俺、楽になれるのになぁ・・・・)

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